第64話 逃走せず
「がっ!!」「ぐっ!!」
どこからともなく飛んでくる弾丸に、またも野木衆の者たちが怪我を負い戦闘不能に陥る。
「くそっ! このままでは……」
飛んでくる方向さえ分かれば対応できる攻撃だが、こうも不規則だとそれも不可能。
個の攻撃をしている者の始末に、何班かの仲間が向かったが、それでも何の変化もないところを見ると、返り討ちに遭った可能性が高い。
今はまだ数で押しているが、このままこの攻撃を受ければ花紡衆の方が有利になってしまうかもしれない。
そのことが分かっているだけに、野木衆の者たちは焦りを見せていた。
「そろそろ……かな?」
野木衆の数を順調に減らしていた凛久だったが、彼は彼で状況を変えないといけない状況に陥っていた。
というのも、野木衆にとって、今一番のネックは凛久の長距離狙撃だ。
それを潰すために、凛久を狙って来る野木衆の数が増えてきていたからだ。
何度も転移をして居場所を変えていることに気付いたのか分からないが、飛んでくる方角が6ヵ所だということには気付いたのだろう。
その6ヵ所全てに、野木衆の者たちが迫ってきている。
そんな状況でも、凛久はそれ程慌てていなかった。
何故なら、こうなることは予想できたことだからだ。
「蒼は逃げていいとか言っていたけど……」
初代国王と同じ転移者であっても、凛久はあくまでも日向の国とは無関係の人間だ。
協力を求めたが、命を捨ててまでとは求めていない。
そのため、このような状況になった時、蒼は凛久に逃げるように言っていた。
「そうはいかないよな……」
元々平和な日本に生まれ育った凛久からすると、蒼の言葉に甘えて逃げたい気持ちもなくはない。
しかし、いきなりこの世界に転移して右も左もわからず、どうやって生きていけばいいのか分からなかった自分を救ってくれたのは蒼だ。
その時の恩もまだ返せたとは思っていないし、蒼が負ければ日本に戻るための情報を手に入れることもできない。
何より、このまま逃げれば男が廃る。
そう思った凛久は、ライフルから腰のホルスターに差した銃に手を移した。
「っ!! いたぞ!!」
凛久が銃を抜いたところで、野木衆の追っ手に見つかった。
その声に反応し、他の野木衆の者たちも凛久へと向かってきた。
「数が自慢じゃなかったのか? そんな少人数で向かって来ても、無駄だっての……」
4人1組での行動が主体になっているのか、その4人が凛久に迫る。
そんな4人に対し、凛久は冷静に銃を向けた。
“パンッ!!”“パンッ!!”“パンッ!!”“パンッ!!”
「がっ!!」「ぐっ!!」「うっ!!」「ごっ!!」
銃を構えたのを見て、野木衆の4人はバラバラな角度から凛久へと迫る。
その反応の素早さは流石と言ったところだが、そう来ることは魔物相手でも経験している。
素早さで言えば、アカルジーラ迷宮の最下層にはもっと素早い魔物ものがいた。
それに比べれば、彼らの動きなんて対応可能だ。
1人1発放つだけで、凛久は4人を戦闘不能に追い込んだ。
「くっ!! あの武器に気を付けろ!」
「「「おうっ!!」」」
この場に迫る4人を倒したと思ったら、次は一番近くの転移場所に向かっていた4人がこちらへと迫っていた。
他の転移場所に向かっていた者たちも、その場には誰もいないことを確認したらしく、こちらへと向かい始めている。
「順番に来るだけなら問題ない」
次に向かって来る4人は、先程仲間を倒した凛久の持つ武器に脅威を覚えたようだ。
武器の特性上、銃口の向いた一直線上に飛んでくる。
そのことを、さっきの攻撃で理解したらしく、まっすぐ突っ込んでくるようなことはしない。
細かくジグザグに移動しながら、凛久との距離を詰めてきた。
「「「「死ね!!」」」」
野木衆の4人は、バラバラに動きながらもほぼ同時に凛久との距離を詰めた。
今から先程の攻撃をされても、全員がやられることはない。
1人殺られようが、凛久のことを討てればいいと考えての行動だろう。
「残念……」
“パパパパ……ッ!!”
「「「「っっっ!!」」」」
かなりの距離が近付いたところで、野木衆の4人は忍刀を抜く。
それで凛久を殺すつもりなのだろう。
しかし、これ以上近付かせるつもりはない。
というより、凛久はワザと彼らを呼び込んだのだ。
近くまで迫った4人に対し、凛久はいつの間にか手にしたマシンガンで攻撃を放つ。
先程の銃にはない連射性の攻撃により、4人は凛久に攻撃することができずに倒れた。
「武器のことを考えて、買っておいてよかった……」
凛久の持つこのマシンガンをどこから出したかと言うと、魔法の指輪からだ。
この魔法の指輪は、この戦いに向かう前に用意した物で、凛久がアカルジーラ迷宮で狩った魔物の余った素材を売った資金によって、ギリギリ買うことができた。
魔法の指輪の中では安物で容量も少ないが、そうはいってもかなり高額の代物だ。
もう少し資金を溜めればもっと容量の多い魔法の指輪を買うことができたのだが、そんなことをしている時間はなかった。
凛久が作り出した武器は、威力が高くてもどうしても嵩張る。
それを解消するために購入しておいたのだが、その考えは正解だったようだ。
「っ!? 残りの16人で向かって来るか……」
凛久がいる場所とその近くの場所の2ヵ所に向かっていた、2組8人を倒すことに成功した。
残り4ヵ所に向かっていた4組は、先に凛久へと迫った8人がやられてしまったのを見て、警戒を更に強めたようだ。
野木衆お得意の集団攻撃で凛久を倒すことにしたのだろう。
残りの全員が集まって、凛久との距離を詰めてきている。
「フンッ!!」
敵の集団とはまだ距離がある。
ならばわざわざ待つことなどせず、1人でも倒すために攻撃をするべきだ。
そう考えた凛久は、マシンガンを魔法の指輪に収納し、代わりにライフルを取り出す。
そして、迫り来る16人のうちの1人に狙いをつけた。
“パンッ!!”
「ガッ!!」
凛久の狙い通り、1人を討ち倒す。
しかし、仲間がやられたというのに、他の者たちは全く動揺することなく足を止めない。
「仲間がやられてもか……」
彼らは、先程マシンガンで撃ち倒した4人と同様の考えなのだろう。
仲間がやられても凛久を倒す。
その決意をもって行動していようだ。
「なら……」
彼らが考えていることなんて関係ない。
それならそれで、1人でも多く倒させてもらう。
そう考えた凛久は、ライフルの照準を他の人間に合わせた。
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