第61話 天王山

「ギャッ!!」「グエッ!!」「ガッ!!」


 音もなく弾丸が飛来し、野木衆の者が負傷する。

 弾の速度と、どこから飛んできているのか分からないため、回避のしようもない。


「グッ!!」「ウッ!!」


 更なる銃弾が、野木衆の者たちを襲う。

 しかし、その攻撃を感じ取った野木衆の者は、当たる前に体をよじり回避しようとする。

 それにより、野木衆の者は急所への直撃を避けることに成功した。

 だが、完全に回避することができず、手足に浅く当たった。

 どこから攻撃してきているのかは分からないが、飛んでくる方向は理解した。

 その方向を警戒することで、直撃を回避したのだ。


「いいぞ! どうやっているのか分からないが、方向が分かれば問題ない」


 野木衆頭領の道豪は、部下たちの対応に笑みを浮かべる。

 高威力の遠距離攻撃は脅威だが、大怪我さえ負わなければ対処のしようがある。

 もう数人の部下が、攻撃が飛んできた方向に向かっている。

 長距離からの攻撃を得意とする事は、近接戦闘に自信がないということだろう。

 攻撃してきた人間を見つけさえすれば、すぐにでも始末できるはず。

 それまで長距離攻撃に注意しながら、蒼と花紡州の者たちの相手をすればいいのだ。


「攻撃をしている者を殺すまでは警戒しろよ!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 野木衆の者たちは、道豪の言葉に返事をする。

 長距離攻撃は意外だったが、そんな攻撃があると分かればある程度対処できる。

 道豪の指示の通り、長距離攻撃に警戒しながら、花紡衆の者たちへの攻撃を続けた。


「フッ!!」


 代わる代わる攻めかかってくる野木衆の攻撃に対処しながら、蒼は密かに笑みを浮かべる。

 というのも、野木衆の対応は自分たちが想像していた通りのものだったからだ。

 蒼だけではない。

 花紡衆の者たちも、蒼と風巻から受けていた通りの展開のため、慌てることなく戦闘に集中していた。


「ウッ!!」「ギャッ!!」「ぐあっ!!」


「な、何故だ!?」


 またも弾丸が飛んでくる。

 それにより、またも数人の野木衆の者が大怪我を負った。

 この結果に、道豪はまたも慌てたような声を上げる。


「何故また別方向から……」


 飛んでくる方向を把握し、警戒もしていた。

 それなのに攻撃を受けたことに驚いたのではない。

 またも、先程とは違う方向から攻撃が飛んできたからだ。


「しかも、真逆だと……」


 道豪が言うように、弾が飛んできたのは先程とは全くの真逆から。

 これでは警戒していた意味がない。


「まさか、他にも……」


 2度あることは3度ある。

 道豪の頭には、そんなことわざが頭によぎった。

 それと共に、更なる嫌な予感が頭に浮かぶ。

 3度どころか、それ以上のことが起きるのではないかということだ。

 一方向からの攻撃では、自分たち野木衆の者なら警戒してすぐに対応してくる。

 ならば、数か所から攻撃をする事で対応しきれないようにすればいいと敵は考えたのではないか。

 そうなると、3ヵ所どころではないかもしれない。

 他の方角からも、強力な遠距離攻撃が飛んでくるかもしれない。


「そうなるとマズイ……」


 それだけの方角から攻撃してくるほど、敵の人数はいない。

 少数が位置を移動しながら攻撃してきている。

 それでも、攻撃してきている人間の位置が掴めないと倒すことも出来ず、いつまでも攻撃が飛んでくることになる。

 つまり、時間をかければ、こちらが不利になっていくということだ。


「やはりすごいな……」


「全くです」


 蒼の称賛の言葉に風巻も頷く。

 長距離から頼吉を始末できれば問題なかったが、警護が付いているうえに姿を現す可能性も低い。

 そのため、狙撃に失敗する可能性は計算のうちだった。

 狙撃に成功すれば良し。

 失敗、もしくは狙撃の機会がなければ、自分たちの援護に回るという凛久との取り決めだった。

 その援護の仕方がとんでもない。

 姿を現さず、敵の道豪を困惑させている。

 思った通り転移者の恩恵を受け、初代王妃の予知夢を信じて凛久を見つけたことは正解だったと確信していた。


「援護を信じ、戦え花紡衆!!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 凛久の援護があれば、野木衆が数で攻めてこようと勝てるはず。

 そう感じ取った蒼は、花紡衆の者たちに檄を飛ばす。

 その檄を受け、花紡衆の者たちの士気が高まった。


「くっ! このままでは……」


 様々な方角から飛んでくる長距離攻撃。

 それに警戒しながら戦っていては、花紡衆の者たちを削ることも難しい。

 あの長距離攻撃があっては、時間をかければこちらの方が不利になる。

 そう考えた道豪は、新たな手を打たざるを得なくなった。


「房羅!!」


「ハッ!!」


 側に控えていた房羅に声をかける。

 房羅の方も、道豪が何を考えているのかを理解しているのか、待っていたかのように返答した。


「俺は風巻の相手をする。お前は蒼様の相手をしろ!」


 時間をかければ不利になるのなら、短縮するしかない。

 敵の将となる蒼と、花紡衆の頭領である風巻の始末を優先する。

 それをおこなうため、自分たちが動くことにしたのだ。


「……畏まりました!」


 大将となる蒼を倒すのなら、道豪が相手をするべきなんではないか。

 なので、自分が風巻の方を相手にすると思っていたため、房羅は道豪の指示に返事するのに一瞬間をあけてしまった。


『自分の手で風巻を倒したいのか……』


 花紡衆の風巻、野木衆の道豪。

 実力伯仲の2人は、昔から比べられてきた。

 数より質の花紡衆と、質より量を選んだ野木衆。

 御庭番に選ばれたのは花紡衆の方だった。

 その選択に、道豪は納得いっていなかった。

 自分たちの方が成果を出す。

 それを証明するために、道豪は跡目争いを利用した。

 自分たちの思う通りに動かせる頼吉に付き、花紡衆を始末する機会を作り出した。

 憎き花紡衆の当主の風巻を始末する。

 道豪はそれを他の者に譲りたくないのだろう。

 そのことを理解したからか、房羅は道豪の選択に納得した。


「行くぞ!」


「ハイッ!」


 敵のトップである蒼と風巻を始末することで、敵の士気を奪い去る。

 その選択をした風巻が声をかけ、房羅と共に行動を開始した。


「っ!!」


「動いた!」


 蒼と風巻は、道豪と房羅が動いたことにすぐ気付く。


「望むところよ!」


 自分たちを倒すために、野木衆のトップが動いた。

 頭を倒して、敵の士気を奪いたいのは蒼たちも望んでいたこと。

 そのことから、蒼は迫り来る道豪と房羅を待ち受けた。


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