第60話 失敗

「源昭ーーー!!」


 言葉には言い表せない。

 道豪はそんな自分の直感に従い、後ろに建つ日向城の天守閣に向かって、部下の名前を大声で叫ぶ。


「っっっ!!」


 頼吉の側に控えていた源昭は、頭領である道豪の声に反応する。

 声の慌て具合から、頼吉に何か危険な何かが迫っている。

 そう考えた源昭は、すぐさま頼吉にタックルするようにしてを部屋の中へと押し倒した。

 源昭のその咄嗟の行動により、凛久の長距離からの頼吉暗殺は、まさに間一髪と言ったところで失敗に終わった。


「がっ!?」


「ヒッ、ヒィー!」


 凛久の放った弾丸は、頼吉に当たらなかったが、彼を守るために行動した源昭がただでは済まなかった。

 頼吉を庇ったことで肩を貫かれ、源昭は大量出血してのたうち回る。

 そんな源昭を見て、頼吉をは一歩間違えれば自分が殺されていたことを理解し、悲鳴と共に腰を抜かした。


「クソッ! 護衛が盾になったか……」


 遠く離れた位置から頼吉の暗殺。

 成功すれば、あっさりとこの戦いに勝利できる。

 そんな思いから、凛久はアカルジーラ迷宮下層の魔物の素材から狙撃銃を作り出した。

 野木衆の頭領の道豪の探知にも引っかからないほどの距離からの狙撃となると、相当離れた位置からの狙撃となる。

 一発で仕留めないと、頼吉は二度と狙撃できる場所に姿を現さないだろう。

 その一度しかないチャンスが失敗に終わり、凛久は悔しそうに呟いた。


「仕方ない……」


 最初で最後のチャンスを逸して悔しい気持ちはありながらも、凛久はすぐさま気持ちを切り替える。

 というのも、距離が距離だけに、失敗する可能性も最初から考慮していたからだ。


「次に移るか……」


 護衛が盾になることで、頼吉は天守閣内に姿を消してしまった。

 こうなったら次は期待できないため、凛久は頼吉のことを諦めてを狙うことにした。

 狙撃銃に装着したスコープとなる望遠の魔道具を覗き込み、凛久は銃口を天守閣から別の場所へと移動させた。






「なっ、何ださっきのは!?」


 嫌な予感が的中した。

 どこからともなく飛来した攻撃により、あと少しで頼吉を暗殺されてしまう所だった。

 しかし、自分の直感を信じて叫んだ甲斐があった。

 源昭が盾になることで頼吉が助かったことに、道豪はひとまず安堵した。

 だが、安堵したのも束の間、道豪は慌てて周囲を探る。

 自分の探知には、攻撃を放った人間の殺気が全く掴めなかったからだ。


「まさか、我々の探知の外から……」


 王城の周囲には、野木衆の全戦力が集まっている。

 蒼と風巻たち花紡衆と戦う者の他に、念のため周囲を探知する人間も配置している。

 道豪自身も警戒をしていたというのに、先程の攻撃は引っかからなかった。

 そのことから考えられるのは、自分たち野木衆の探知範囲の外から攻撃されたということだ。


「そんな兵器があるわけ……」


 自分たちの探知の外からの攻撃となると、肉眼で見える範囲にはいないということ。

 そこまで離れた位置から、源昭の肩に風穴を開けるような強力な一撃を放つことなんて、長距離攻撃に特化した兵器でもなければ不可能だ。

 しかし、そんな武器を見たことも聞いたこともない。


「そうか! 転移者の奴が……!」


 一度国から逃れた時、蒼は初代王妃の予知夢に縋り、花紡衆の者と共に転移者の捜索を始めたという話しだった。

 そんな眉唾な話を鵜呑みにするなんて、多くの者は気でも触れたのかと思っていた。

 しかし、蒼はその転移者らしき者を見つけ出し、日向へと戻て来たが、どうして転移者なんて存在を求めたのか分からなかった。

 この国の人間なら、転移者と聞いたら初代国王のことを思い出す。

 そして初代国王と言ったら、たった一人で世界中を回り、名を上げた剣豪という印象。

 そのため、転移者とは初代国王と同等程度の戦闘能力に特化した人間なのだろうと、道豪たちは勝手に考えていた。

 だが、よく考えれば初代国王のような強者が都合よく転移してくるとは限らない。

 だとすれば、この世界にない武器を生み出すような者が転移してきてもおかしくない。


「おのれ……」


 未知の武器により遠距離攻撃反て、やられる方からしたらかなりの脅威だ。


「だが……」


 自分が気付かなければ、先程の一撃で頼吉の天下は終わっていた。

 それはつまり、野木衆の終わりだったとも言える。

 しかし、最悪な状況は回避することができた。

 攻撃をしてきた転移者の位置は分からないが、城内に隠れた頼吉を狙うことはできない。


「お前たち! 数人で探知の外にいるかもしれない転移者を探して殺せ!」


「「「「ハッ!!」」」」


 城を中心として見える範囲内。

 その外に転移者がいるはず。

 その転移者を始末させるために、道豪は側に居た4人の部下に指示を出し、それを受けた4人は頷きを返してすぐに移動を開始した。


「やってくれますな。蒼様」


 想定外のことを受け、思わず慌てることになった。

 転移者か蒼のどちらかが、このような奇策を考えたのだろうが、実行を決断したのはきっと蒼だ。

 その決断力には、敵ながら感服する。

 そんな思いで、道豪は仲間と共に襲い来る敵を相手にする事で精いっぱいの蒼に向かって話しかけた。


「しかし、残念でしたね。あなたの策は失敗。転移者もすぐに始末されるでしょう」


 戦いに集中している様子なので、蒼の耳に入っているかは定かではない。

 それでも、僅かでも蒼を動揺させることができれば、道豪としては御の字だ。


「そんな事にはならない!」


 迫り来る敵の攻撃に集中してため、蒼は道豪に視線を向けずに言葉を返した。

 狙撃の失敗。

 優秀な指揮官なら、どんなに自信がある策でも失敗する時はあることを念頭に入れているもの。

 蒼も、このような状況になることは想定していた。

 凛久の一撃で頼吉を殺せれば、これほど楽な終わり方はない。

 しかし、もしも失敗した場合、その後どうするのかまでも撃ち合わせていた。


「ガッ!?」「ゴッ!?」「ギャッ!?」


「っっっ!?」


 道豪が蒼の言葉の意味を探っていたところ、戦場に変化が起きる。

 花紡衆の者たちから少し離れた位置にいる野木衆の者たちが、いきなり悲鳴を上げて倒れ始めたのだ。


「……ど、どうして……」


 倒れた部下たちを見て、すぐに誰が攻撃したのかは分かる。

 転移者の攻撃だ。

 しかし、だとしたらおかしい。

 飛んできた攻撃が、先程とは全く別の方向からだったからだ。

 何が起きたのかすぐには分からず、道豪は僅かな時間驚きで固まった。


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