第49話 再戦
『……居た』
壁に背を付け、曲がり角から僅かに顔をのぞかせる。
目当ての魔物が見つかった凛久は、心の中で攻め込むタイミングを計るように深呼吸を繰り返す。
『ゴー!!』
心の中で覚悟を決めると、凛久は曲がり角から飛び出す。
そして、武器を魔物に向けて構えた。
「「「「「ギッ!!」」」」」
「くっ!!」
標的となる魔物は、突然現れた凛久に対し一斉に目を向ける。
相手が相手だけに、睨まれると恐怖に圧し潰されそうになる。
「くらえ!!」
“ダダダダッ……!!”
「「「「「ギャ!!」」」」」
恐怖に晒されながらも、凛久は武器の引き金を引く。
それによって弾丸が乱射され、大量の魔物たちを打ち落としていった。
「よしっ! 戻るぞ!」
「ワウッ!」
凛久が魔物と戦っている間に、倒した魔物数体をクウが一か所に集める。
魔物の死体が小さい山になるほど集まると、凛久はクウと共にその場から転移した。
「やった! 成功だ!」
「ワウッ♪」
安全地帯の部屋へと戻った凛久とクウは、自分たちともに転移した魔物の山を見て、実験の成功に喜び合う。
山となっている魔物の死体。
それは、この最下層に置いては最弱の魔物である巨大蜂の死体だ。
「やっぱり、マシンガンを作ったのは成功だ!」
実験が成功したこともあり、凛久はテンション高く呟く。
凛久が、ジャルの角を使って作り出したのはマシンガンだ。
凛久が持っていた銃は、一発が強力だが連射性が低いため、巨大蜂は単体を相手にするしかなかった。
それなら連射性のある武器があれば、大量に飛び交っている巨大蜂を倒すことができると考えた。
しかし、強力な一撃を放つには、武器そのものにも相応の強度が必要になる。
連射となると尚更だ。
単発銃なら、銃も魔力で強化することで壊れないようにすることができるが、ジャルを倒すにはそのための魔力も攻撃に使用したい。
そこで手に入れたのがジャルの角。
この強度の素材を利用すれば連射性のある銃が作れると思っていたが、予想通りの結果になった。
このマシンガンがあれば、単体ではなく群れで巨大蜂の相手ができる。
「それに、これでまた弾が増えたぞ!」
クウに巨大蜂の死体を回収させたのには、もちろん理由がある。
マシンガンの弾に使用するのは、魔力ではなく実弾を使用している。
その実弾に使用している素材が、巨大蜂の針だからだ。
魔力を弾にして発射することもできるが、実弾を使うことで僅かだが使用する魔力を軽減させられ、その分一発の威力向上に使用できる。
連射性がありながら、単発銃の一撃に近い威力が出せるマシンガンが手に入った。
「これで、おいしい経験値稼ぎができる!」
マシンガンの作成成功による恩恵は、弾になる針だけではない。
この世界では、魔物を倒せば身体能力が成長するが、その速度は、倒いした相手の強さや数によって変わってくる。
強くて数の多い巨大蜂を大量に倒すことができるのだから、これほど成長できる方法はないだろう。
しかも、凛久は転移魔法が使えるようになっているため、今回の様にある程度戦闘しただけで安全地帯に帰って来れるし、倒した魔物の回収も並行してできる。
味はともかく、食料確保も出来ることを考えると、一石二鳥どころの話ではない。
「巨大蜂の群れ退治で成長して、ジャルを倒すのが目標だ」
蒼のもとへ戻るにしても、少しでも強くなった状態で戻りたい。
そのために、凛久はジャルを倒すこと目標にした。
「ハァ、ハァ……」
「ワウッ……?」
凛久が息を切らすのを、心配そうに眺めるクウ。
安全が確保された効率のいい経験値稼ぎを繰り返し、魔力をほとんど使いきってしまったことで、疲れ切っている状態だ。
「ハァ~……、魔力を使うな……」
しばらく座り込んで休憩を計った凛久は、ようやく呼吸が落ち着いたらしく、大きく息を吐く。
効率のいい経験値稼ぎではあるが、一回の戦闘と部屋への帰還で魔力を結構使用する。
休憩を挟んでも、1日に3回おこなうくらいが限界のようだ。
「それでも毎回一発の威力が増しているのは分かる。やっぱりこのやり方は間違っていないようだ」
まるでゲームの裏技のような成長の仕方だが、元の世界に帰るためには強さが必要だ。
なので、凛久にとってはどんな方法だろうと関係ないため、この方法を繰り返すことにした。
◆◆◆◆◆
「グルル……!!」
「よりにもよってお前か……」
巨大蜂狩りを2日ほど続けることで実力をつけた凛久は、ジャルと対峙していた。
対峙とは言っても、もちろんジャルからは遠く離れている。
それでも、こちらに気付いて近付いてきているため、ジャルの全貌は分かる。
迫り来るジャルの姿を見て、凛久は思わず呟いた。
というのも、迫り来るジャルの角が片方無いからだ。
どうやら、マシンガンを作ることに利用した角の持ち主とまた遭遇したようだ。
「さすがに数日じゃ再生しないようだな……」
よく見ると、ジャルの角が折れた時と少し変化している。
折れても再生するのだろうと考えていたが、すぐに再生するという訳ではないようだ。
「むしろ丁度いいか」
武器であり防御にも使用できるジャルの角。
それが1本しかないのだから、むしろ相手にするには都合がいいと言っていい。
迫り来るジャルに向けて、凛久は冷静に銃を構えた。
「…………」
左右に動きながら、ジャルは凛久に向かって迫り来る。
ジャルも、凛久が自分の角を折った相手だと理解しているからこそ、狙いを定まらせないためにこのような接近方法を取っているだろう。
魔物でありながら、学習能力が高いようだ。
そんな左右に動くジャルに対し、凛久は無言で狙いを定める。
“パンッ!!”
「っっっ!! ギャウッ!!」
あと数メートルで、ジャルの角による攻撃が凛久に突き刺さる。
そんな所までおびき寄せ、凛久は銃の引き金を引いた。
発射された弾丸は、ジャルの残っていた片方の角をへし折ると共に、脳天に風穴を開けた。
「……よっしゃー!!」
当てる確率を上げるためにギリギリまでおびき寄せたが、もしも弾が当たっていなかったら、確実に自分が殺されていた。
そんな恐怖を受けた凛久は、倒せたというのに銃を持つ手が震える。
しかし、一息つくと勝利の喜びが沸々と沸き上がり、凛久は思わずガッツポーズをとった。
「鹿? 羊? 山羊? まぁ、ともかく肉ゲットだ!」
「ワウッ!」
いまいちな巨大蜂ばかり食べていたため、久々の肉を手に入れられて凛久とクウは喜んだ。
そしてすぐさま安全部屋に戻り、捌いた肉を焼き始めた。
「巨大蜂よりは美味い……けど、やっぱり物足りないな」
「ワゥ……」
久々の巨大蜂以外の料理ということで、何となく美味しく感じる。
しかし、調味料がないと肉そのものの味ということで、やはりめちゃめちゃ美味いとは言い難い。
「まあいいか。角も手に入ったし、これでまた武器が作れる」
味はいまいちと言いながらも、凛久とクウは結構な量の肉を食べる
そして、腹が膨れると、凛久は一息つくように呟いた。
マシンガンと同様の素材が手に入ったことで、単発銃の性能向上が図れる。
そうなれば、これまで以上に強力な一発が撃てる。
そう考えると、凛久は思わず嬉しそうに微笑んだ。
「……あっ! そろそろ蒼の所に戻ろうか?」
「ワウッ!」
凛久は、そこでようやく蒼を心配させたままだということに気が付いた。
いつまでもここで経験値稼ぎしているわけにはいかない。
そして、食事休憩を終えた凛久は、クウと共に蒼のもとへ転移したのだった。
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