第48話 武器製造
「ちょっと待ってくれ」
「んっ?」
魔法陣によって最下層に飛ばされ、それ以降の話をしていた凛久。
それを黙って聞いていた蒼だったが、転移魔法を覚えたという所で話を止めてきた。
「飛ばされて7日目で転移魔法が使えるようになったなら、すぐに戻ってくれば良かったんじゃないか?」
「……そうだな」
「そうだなって……、我々もかなり切羽詰まった状況だったんだぞ!」
蒼の言葉に、凛久は少し間を空けて返答する。
野木衆の者たちが自分たちの居場所を突き止めているということは、襲撃を受けたことからも明らかだ。
もしも送った部隊から何の報告も受けなければ、全滅したとして追撃の部隊を送り込んでくる可能性が高い。
日向からタゴートの町までは10日程。
その期間までに、迷宮内のどこかに飛ばされた凛久を救出することができなければ、蒼たちはこの地を去る予定だった。
転移してしまってそんなこと知る由もなかったとはいえ、もっと早く自分たちの心配が解消されていたかもしれないと分かり、軽い返答聞こえた蒼は少し怒りを含んだ声で凛久へと言葉をぶつけた。
「……そ、それは申し訳ない」
蒼たちが心配してくれていることは、凛久も想像できた。
しかし、そのことを忘れてしまうほど、転移魔法の獲得に歓喜してしまった。
叱られた凛久は、今更ながらにそのことを反省し、すぐさま蒼に頭を下げた。
「……っで? 私たちに会うまでの間何をしていたんだ?」
「自分強化のために魔物退治を……」
「……えっ?」
凛久の謝罪を受けてひとまず収まったが、すぐに帰ってこなかったことに対する怒りはまだある。
それはひとまず置いておくことにして、蒼は何をしていたかの説明を求めることにした。
すると、凛久から返ってきた魔物退治という答えに、蒼は固まった。
「巨大蜂しか倒せなかったんじゃなかったのか?」
「ちょっと良い方法を思いついたんだ」
「……話を続けてくれ!」
単体で動いている巨大蜂だけを狙っていたとはいえ、強力な魔物が闊歩する最下層で生き延びていた。
それだけでも、肉体的にも精神的にも強くなっているというのは分かるが、それでも凛久が生き残ることは難しい環境のはず。
そんな状況で、どうやって魔物退治なんてしていたのだろうか。
気になった蒼は、にじり寄るように凛久へと凄んだ。
「わ、分かった」
蒼の無言の圧により、凛久は素直に従って説明の続きを再開した。
◆◆◆◆◆
「……待てよ。転移できるなら、部屋の外に出ることを恐れる必要ないんじゃないか?」
「……ワウッ?」
物体が成功した後に、凛久は自分やクウを部屋の内部で転移の実験を試みた。
この時、蒼が言うように脱出を計っていれば、再度野木衆の襲撃を受ける必要はなかっただろう。
しかし、転移魔法が使えるようになった凛久は、完全に利用法を考えることに向いていた。
その利用法を考えていると、凛久にはあることに思い付き、独り言のように呟く。
部屋の外の魔物は強力なものばかりで、その恐ろしさから主人も自分もこの部屋から離れられないでいた。
転移魔法が使えるようになったからと言って、その恐ろしさに変わりはないはず。
それなのに、どうしてそういった考えになるのか分からず、クウは凛久の呟きに首を傾げた。
「この部屋にいつでも帰れるようにして、ちょっとでも危険を感じたらここに転移すればいい。そうすれば、部屋周辺の魔物の調査ができる。後は効率よく魔物を倒せば、経験値が手に入るってわけだ!」
凛久は、思いついた考えをクウに向かって話し始める。
気分が上がっているせいか、ゲームの経験値という言葉を思わず使っている。
クウが理解できるかなどお構いなしで、考えたことを自分でも整理するために口に出しているのかもしれない。
「強くならないと、足手まといのままだからな……」
転移できるようになったのなら帰ればいいとも思ったが、それではまた成長するために蒼たちに世話になることになるかもしれない。
いつまでもそうしていることは、日向へ向かうことが遅れることに繋がる。
日本に少しでも早く帰るには、日向にある初代国王の残した書物を目にする必要がある。
そして、少しでも早く日向へ向かうためには、自分が強くなればいい。
そのためにも、すぐに地上へ戻るのではなく、この場で魔物退治を続けるべきだと凛久は考えた。
「経験値を効率よく稼ぐためにも、もっと強力な威力の武器があれば良いんだけど……」
転移魔法が使えるなら、危険と感じた瞬間安全地帯であるこの部屋に戻ればいい。
それで安全性は確保できる。
しかし、それではいつまで経っても多くの経験値を稼ぐ事なんてできない。
それを解消するために、凛久は何か良い方法がないか考え始めた。
「…………あれっ? この針使えんじゃね?」
しばらく考え事をしていた凛久は、部屋の一か所を見てふとあることに思い至った。
食料として倒した巨大蜂の針だ。
食べる時に危険だからという理由で取っておいたが、使い道なんて考えたこともなかったため、完全に放置していたものだ。
そんな針を見て思ったのが、あの巨大蜂の最大の武器なのだから、強度もかなりのものがあるはず。
ならば、この針を利用できるのではないか。
「これを錬金術の魔法陣で……」
転移魔法に続いて、イタヤで学んだ魔法陣の勉強はまたも役に立つ。
物質の形を変化させるために、凛久は魔力を使って錬金術の魔法陣を床に描いた。
その魔法陣の中心に巨大蜂の針を置き、少し形を変えてみることにした。
「ぐわっ! ちょっと形変えただけになのに結構魔力を奪われた。どんだけ堅いんだよ!」
錬金術の魔法陣ならどんな硬い物質でも変化させることができるが、それが何の見返りもなくできる訳ではない。
変化させるためには、それ相応の魔力が必要となる。
ちょっと形を変えてみただけだというのに結構な魔力を必要としたため、凛久は思わずツッコミを入れた。
「そうだ! この角!」
転移魔法が使えるようになる前に、必死の思いをして拾てきたジャルの角。
巨大蜂の針よりも硬いこの角なら、もっと強固な武器が作れるのではないかと凛久は思いついた。
「よし! ハーーーッ!!」
巨大蜂の針でも結構な魔力を必要とするなら、この角を変化させるには更なる魔力が必要となるはず。
そう考えた凛久は、気合いを入れて角の置かれた魔法陣に魔力を注いだ。
「……ぐ、ぐうっ……!!」
凛久が必死に魔法陣に魔力を注ぎ込むが、なかなか変化しない。
それでも、少しずつだが変化していく。
「ガァーーー!!」
あと少しという所まで変化したため、凛久は思いっきり魔法陣に魔力を注ぎこんだ。
すると、あのジャルの強固な角が、思った通りの形に出来上がった。
「や、やっ…た……」
「ワ、ワウッ!?」
魔法陣のあった場所に、自分がイメージした形の武器がある。
それを見た凛久は、錬金術の成功を確信しする。
そのことに安心し、気が抜けたのか大量の魔力を消費した疲労感が一気に襲い掛かってきた。
そのため、凛久は足下がフラつき、その場にへたり込んでしまった。
側で見ていただけのクウは、急に弱った主人の姿を見て慌て、心配そうに駆け寄った。
「だ、大丈夫。魔力をほとんど使った反動だから」
心配そうなクウを安心させるため、凛久は優しく頭を撫でる。
そして、しばらくその場に座り込み、魔力回復を計った。
「これで経験値稼ぎができるはず……」
休憩をして魔力が少し回復した凛久は、ジャルの角から出来上がった武器を手に取る。
そして、その武器を見ながら、思いついた効率の良い経験値稼ぎの成功を確信したのだった。
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