第46話 生存

“ズダダダ……ッ!!”


「ハハハハッ!!」


「…………」


 銃を乱射して、笑い声と共に野木衆の者たちを仕留めていく凛久。

 若干狂気を帯びている笑いに、蒼は思わず唖然とした。


「蒼、大丈夫か?」


「……はっ! そうだ……」


 凛久の出現によって形勢が変わった。

 この状況なら呆然としている場合ではない。

 凛久には色々と聞きたいことがあるが、今は野木衆の者たちを相手にするのが先だ。

 自分の後方にいる敵は凛久に任せることにし、蒼は前方にいる指揮官たちの方を相手にすることにした。


「もしかしてあいつは……」


「……まさか! 奴は死んだはずじゃ……」


「それに何だあの武器は……?」


 急な凛久の出現に、野木衆の者たちも驚いていた。

 状況を受け入れるためか、小さい声で会話をしている。


「おのれ……!!」


 彼らが受けた指示は、蒼と花紡州の始末。

 蒼たちに始末されてしまったが、先に派遣された者たちによって転移者と思わしき者は死んだという報告を受けた。

 しかし、その転移者らしき未知の武器を所持した人間が目の前にいる。

 前任者たちは誰も始末できず、全滅したということになる。

 そんな仲間のことを思うと、指揮官の男は怒りが込み上がってきた。


「全員何としてもここで仕留めろ!!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 これだけの人数を揃えた自分たちまでここで殺られれば、日向にいる他の野木衆の者たちに申し訳が立たない。

 転移者と思わしき者も合わせ、何としてもこの場の全員を仕留めるべく、野木衆の者たちは蒼たちに襲い掛かった。


「蒼! 伏せろ!」


「えっ!? あぁ……」


 突然の声に、蒼は凛久の方に視線を僅かに移す。

 そこには、見たこともないような物を持った凛久が、かなりの量の魔力を込めていた。

 それが武器なのだと察した蒼は、戸惑いつつもその場へしゃがみ込んだ。


“ドンッ!!”


「「「「「っっっ!?」」」」」


 凛久の武器から発射された弾丸により、蒼たちに迫っていた野木衆の者たちが吹き飛んだ。

 着弾と共に起きた爆発が治まると、まさに死屍累々と言った状態になっていた。

 生き残った野木衆の者は手足が無くなり、大量の出血をしている。

 即死だった方がまだマシだったかもしれない状況だ。


「……ハハッ! なんて威力だ……」


 凛久の武器によって起きた結果に、蒼は驚きで声を漏らす。

 直撃すれば、自分でもただでは済まない威力だったからだ。

 それと共に、またも聞きたいことが増えた。

 数日しか離れていなかったというのに、一体どうしたらこれだけの力を得られるというのだろう。


「…………うぅ」


「どうした?」


 強力な一撃を放った凛久は、蹲るようにしてその場へと座り込む。

 急なことで心配した蒼は、凛久へと尋ねる。


「……悪い。もう魔力が残り少ない」


 不意撃ちから敵の数を少しでも減らすことを意識していたことと、蒼のいる所に戻れたことで張り切り過ぎた。

 魔力を使いまくってしまい、もうこれ以上の戦闘は難しいため、凛久は蒼に残りを任せることにした。


「……フッ! ここまでしてもらえば、もう大丈夫だ」


「……左様」


 凛久が多くの野木衆たちを倒してくれたことにより、残りは1割にも満たなくなった。

 この人数なら、全員生き残れる可能性が出て来た。

 勝機が見えたことで、風巻たちも蒼の援護をするために、傷だらけの体でありながら立ち上がる。


「くっ! おのれ!」


「逃がすか!!」


「ガッ!!」


 数であれほど押していたというのに、たった1人が現れただけであっという間に形勢逆転してしまった。

 このままでは全滅してしまうと考えた指揮官の男は、蒼たちと戦う仲間を置いて1人で逃走を計ろうとした。

 しかし、それをいち早く察した凛久は銃を構え、残り少ない魔力を振り絞って、一発の弾丸を発射させる。

 その弾丸が指揮官の男の脚を撃ち抜き、逃走を阻止した。


「あぁ~……、もう本当に無理……」


 魔力を使い切って気を失うなんて、蒼たちを危険な目に遭わせる事間違いない。

 しかし、敵を逃がしてまた追っ手を仕向けられる訳にはいかないため、咄嗟にやってしまった。

 蒼たちに申し訳ないと思いつつ、残していた魔力を使ってしまった凛久は目の前が真っ暗になっていった。






◆◆◆◆◆


「……知らない天井だ」


 目を覚ました凛久は、ひとまずお約束の言葉を吐く。

 10日近く迷宮の最下層の部屋にいたため、見慣れた天井でないことはたしかだ。


「おぉ! 目覚めたか!?」


「あ、蒼……?」


「あぁ、ごめん、ごめん」


 気が付くと、すぐ側にいた蒼が抱きついてきた。

 見た目は男性にも見えるが、蒼が女性だと分かっているため、凛久は思わず顔を赤らめる。

 そんな凛久の反応を見て、すぐさま離れた蒼も顔を赤らめて謝った。


「ごほんっ!」


「「っっっ!?」」


 部屋にいたのは蒼だけではない。

 部屋の扉付近にいた風巻は、ワザとらしく咳をする。

 それにより、今のやり取りを見られていたのだと、凛久と蒼は更に顔を赤くした。


「あ、あれからみんな無事だったのか?」


「え、えぇ」


 おかしな空気をかえようと、凛久は蒼に話しかける。

 それを受け、蒼も気持ちを落ち着かせるように返事をした。


「凛久が魔力切れで気を失った後、私と花紡衆の者たちで野木衆の者たちを始末した」


「ワウッ!」


「あぁ、クウも手伝ってくれたな」


 魔力切れで気を失ってしまい、凛久はその後どうなったのか分からない。

 そのため、蒼はその後のことを説明し始めた。

 どうやら蒼と風巻たち花紡州の者たちが、残った敵を倒したようだ。

 その中に自分も入れてもらえなかったからか、凛久の側で大人しくしていたクウが一声上げる。

 その声に、蒼も申し訳ないようにクウの協力を得たことを付けたした。


「自分たちを置いて、指揮官の男が逃げようとしたのも好都合だった。あれで一気に敵の統率が崩れたからな」


 野木衆の連中も、形勢不利になった途端トップが何も言わずに真っ先に逃げようとするなんて思っていなかったらしい。

 蒼たちを始末するという指示を優先するべきか、逃走を図るべきか悩んだらしく、途端に連携が悪くなった。

 野木衆の強みは数による連携だというのに、そんな状態では蒼や傷だらけの花紡州を討つことなどできない。

 1人、また1人と数を減らしていき、最後に足を負傷した指揮官の男を始末したそうだ。


「あの数の野木衆相手には、さすがに私たちも死を覚悟していたよ」


 凛久の捜索も空振りに終わって落ち込んでいる所に、野木衆の襲撃だ。

 生きるために必死に戦っていたが、かなりきつい状態だった。


「しかし、助かったのは凛久のお陰だ。あそこで凛久の援護が無かったら、我々は全滅していたよ」


「私からもお礼申し上げる」


「いや、俺はずっと助けてもらっていたんだ。それを少し返せただけだよ」


 蒼と風巻は、姿勢を正して感謝の言葉と共に頭を下げて来た。

 彼女たちの心からの言葉なのだろう。

 そこまで感謝されると、何だか気恥ずかしい。

 凛久は、2人に頭を上げるように手を振った。


「少しどころではないが……、そういったことにしておこう」


 いつまでも頭を下げたままでは治まらない。

 そう判断した蒼は、凛久の手ぶりを受けて頭を上げた。


「……さて、今度は凛久の番だ!」


「如何にも!」


 感謝を伝えられて蒼は、ひとまず自分たちのことはこれまでと言うように手を打つ。

 そして、凛久に説明を促してきた。

 風巻も同じ思いらしく、蒼の言葉に賛同してきた。


「俺の……って、何が?」


「何がって、転移部屋に入った後のことだ」


「あぁ……」


 咄嗟に問われても、何を話せばいいのか分からない。

 そのため凛久が首を傾げると、蒼が質問の答えを返して来た。

 それでようやく何を聞かれているのか理解した凛久は、10日前の転移した後のことを2人に説明することにした。


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