第45話 帰還
「くっ!! どいつも面倒な魔物ばかりだ……」
魔物を倒し、一息つく蒼たち一行。
いつもは冷静な蒼だが、その表情には余裕がない。
出てくる魔物に、手を焼いているからという訳ではない。
「……蒼様。言いにくいのですが……」
「あぁ、分かっている」
もちろん出てくる魔物は強いが、蒼が焦っている理由はもう時間がないからだ。
野木衆の追撃部隊が来る可能性を考えると、蒼たちが凛久捜索に当てられる期限は10日間。
そして、今日が10日目になる。
下層の捜索を始めてかなり深くまで潜っているが、凛久の生存に関する証拠の欠片も見つからない。
風巻をはじめとする花紡州の者たちも、ここまで探して見つからない以上、凛久が生存している可能性が低いのではと思い始めている。
それだけこのダンジョンは深い。
「武器のこともあるし……」
潜りっぱなしでは、肉体的や精神的は耐えられても武器が耐えられない。
ここの魔物相手に武器が壊れたら戦闘なんてできるわけがないため、数日に1度は地上で手入れをしないとならない。
前回の手入れから連続で潜り続けること4日目ともなると、自慢の刀でも刃こぼれしないか気になってくる。
「どうなさいますか?」
「今日ギリギリまでやって無理なら……諦めるししかない」
具体的に何がと言われると答えられないが、初代王妃の予知夢から、異世界人である凛久が王位奪還を果たすためのカギになると思っていた。
それがない状況で挑むには、完全に玉砕すると分かっていての特攻でしかない。
そんな事に部下の命を懸けるわけにはいかない。
凛久が見つからなかったら、蒼としては日向を捨てて逃げ続ける道を選ぶつもりだ。
「次の階層に行こう」
「ハッ!」
秘めた決意と僅かな期待を胸に、蒼たちは凛久捜索を再開した。
◆◆◆◆◆
「蒼様……」
「……えぇ、分かっている。弱り目に祟り目ね……」
蒼たちが凛久の捜索を続けて数時間。
ここまで探して見つからないのでは、もう凛久のことを諦めるしかない。
仕方なく地上へ戻ろうと上の階層に向かっていたところで、突然風巻が蒼に話しかけて来た。
風巻が何を言いたいのか分かる蒼は、げんなりした様子で返答する。
「予想以上にお早いお着きね……」
「流石姫様……」
蒼と風巻が率いる花紡衆が武器を構えると、ぞろぞろと黒装束を身に纏った者たちが現れた。
花紡州の者たちと少々違う黒装束を身に纏う彼らは、凛久を行方不明に追いやった野木衆の者たちと同じものだ。
蒼たちが来るのを待っていたかのように待ち伏せていたようだが、蒼たちの探知能力の方が上だったようだ。
しかし、野木衆の者たちは慌てた様子がない。
何故なら、
「予想通りの結果に、すぐさま頭領から我らに姫討伐の任が与えられたのだよ」
「あっそう……」
この場にいる野木衆の数が、前回とは桁が違うからだ。
蒼の強さをある程度理解している野木衆の頭領が、素早い行動に出たようだ。
日向からこのアカルジーラ迷宮までかなりの距離があるため、10日では着かないと考えていたが、その考えは甘かったようだ。
蒼たちは、ダンジョンの通路で完全に前後を防がれてしまった。
「さて、大人しく捕まるのであれば、楽に死なせてあげますが?」
「あんたたちがそんな優しいわけないでしょ……」
「ハハッ、バレてましたか」
野木衆は、敵に対して残虐非道を基本方針としている。
相手がどんな者であってもだ。
自分相手でもそんな優しい対応をするような連中ではないことを理解しているため、蒼は鼻で笑うように降伏の提案を拒否する。
自分たち野木衆のことをよく理解している蒼の言葉に、指揮官らしき男は笑みを浮かべながら頭を掻く。
「なら話が速い。やれ!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
指揮官の男が軽く手を振る。
それを合図に、前後を囲む野木衆の者たちは、武器を手に蒼たちへと襲い掛かっていった。
「全員! 全力で抵抗しなさい! 何としても生き残るのよ!」
「「「「ハッ!!」」」」
蒼たち5人に対して、対多数の野木衆。
いくら蒼たちが一騎当千でも、野木衆のこの数相手に生き残るなんてかなり難しい。
しかし、それは分かっていても、彼らの好きにさせるわけにはいかない。
最後まで抵抗するよう、蒼は花紡州の者たちへ檄を飛ばす。
それを受けた風巻たち花紡州の者たちは、返事と共に迫り来る野木衆の者たちを迎え撃った。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「しぶといですな……」
どれほどの時間が経過したのだろうか。
野木衆の大量の死体が転がる中、蒼たちは何とか生き残っていた。
しかし、立っているのは蒼のみ。
風巻と他の花紡州の者たちは、怪我と疲労で膝をついた状態だ。
立っている蒼も体中に怪我を負っており、あとどれくらい戦えるかも分からない状況だ。
「ぐうぅ……」
「……大丈夫? 風巻……」
「な、何とか……」
敵はまだまだ残っている。
蒼だけに戦わせるわけにはいかないと、風巻は無理やり立ち上がる。
そんな風巻に対し、蒼が心配そうに尋ねる。
すると、風巻は強がりとしか言いようがない返答をした。
「我らで血路を開きます。姫様はお逃げください」
「……無理よ。まだ敵は残っているのよ」
命を捨てる覚悟らしく、風巻は蒼へ提案してくる。
しかし、蒼はそれを却下する。
言葉の通り、野木衆の兵はまだまだ残っている。
逃げようにも、今の風巻たちで血路を開くことなんて不可能だ。
「……すげえな。6割殺られたよ……」
たった5人で、集まった野木衆の6割が殺された。
一般兵相手なら一騎当千の実力を有しているという話だが、本当だったようだ。
これだけの野木衆の者を屠っておいてまだ全員生きているのだから、ここにいる5人は一騎当千以上の実力と言って良い。
「それでも、もう終わりだ」
「……ここまでのようね」
次から次へと姿を現す野木衆たち。
凛久を失ったことの喪失感が、上乗せされているからだろう。
さすがの蒼も、敵の数を見て諦めの言葉を呟いた。
「……マシンガン!!」
「ギャァ!!」「ぐわっ!!」「うがっ!!」
敗北必至の状況の蒼たち。
そこで、急に野木衆の者たちが攻撃を受け、ハチの巣の様に体中に穴を開けてバタバタと倒れて行った。
「「「「「なっ!?」」」」」
蒼たちだけでなく、野木衆の者たちも何が起きたのか分からない。
ただ野木衆の者たちの攻撃を受けて悲鳴が上がり、倒れて動かなくなっていくだけだ。
「り、凛久!?」
「おぉ! やっぱ蒼たちだ……」
何者が乱入してきたのか分からずただ唖然としていると、蒼は驚きの表情へと変わる。
野木衆への無差別攻撃をおこなっているのが、捜し求めていた凛久だったからだ。
自分たちの心配など気にしていないように呑気な笑顔で話しながら、凛久は野木衆の者たちを仕留めていく。
「このっ!!」
「危ない!!」
蒼に気を取られた凛久に、攻撃を逃れた野木衆の者がその隙をつくように襲い掛かる。
その光景を見て、蒼は思わず大きな声で叫んだ。
「ガウッ!!」
「ギャッ!!」
「……ク、クウ?」
「ワン!」
凛久へと襲い掛かった野木衆の者だが、その攻撃が届く前に命を落とす。
凛久を守るように現れたクウにより、噛み殺されたためだ。
肉体が一回り大きくなった姿に、蒼は確認するように話しかける。
すると、クウは「そうだよ」と言わんばかりに声を上げた。
「どうして……?」
「いや、転移させれたことで、転移魔法が使えるようになったんだ」
生きていたのも驚きだし、いつの間にか強くなっている。
それに、そもそもどうやってこ場所に現れたのかも分からない。
色々な思いがこもった問いをすると、凛久からとんでもない答えが返ってきた。
「な、何……?」
転移魔法を人間が使えるなんて聞いたことが無い。
あまりにも意外な返答に、蒼は思わず言葉を失った。
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