第4話 小銭稼ぎ

「やるのは薬草採取、それさえできれば、この町で問題なく生きていける」


 ギルドは、いわゆる職業紹介所のようなもので、色々な仕事を扱っている。

 それは町中の仕事もそうだが、そういった仕事は単発や短期な場合が多いため、町中の仕事だけ請け負って生活していくには不安定だ。

 ならば、安定を求めるならば、常在の仕事をおこなえばいい。

 それが薬草の採取だそうだ。


「俺の仕事も済ませられるし、仮の許可証も返しに行けるからな」


「あぁ、そうですね」


 身分証ができたことで、仮の許可証は必要なくなった。

 仮の許可証はあくまでも借りている状況であり、失くすと罰金が高いらしい。

 そんなことになる前に、凛久としても速く返却したい。

 蒼にとってもその方が良いというのなら、当然断る理由がない。

 甘えっぱなしで悪いと思うが、もう完全に蒼頼みにすることにした凛久は、初仕事として薬草採取をおこなうことにした。


「薬草採取ですね。承りました」


 凛久と蒼の話がまとまると、話を聞いていた受付の女性が了承した。

 本来はボードに張り出された依頼書を持ってきて受付をするらしいのだが、凛久の状況を察してくれたらしい。


「じゃあ、行こう」


「はい」


 仕事の受付を終了すると。凛久は仮の許可証の返却とともに、薬草採取に向かうことにした。






「これが薬草だ」


「へぇ~……」


 仮の許可証を変換して蒼と共に町の外に出た凛久は、町の門からそれほど離れていない所で足を止める。

 そして、しゃがみ込むと、1つの草を指さした。

 どうやら、このヨモギのようなものが薬草らしい。


「効能があるから、根まで綺麗に採取した方が高く買い取ってもらえるぞ」


「分かりました」


 早速近くに生えていた薬草を採取しようとした凛久に、蒼がアドバイスをしてくれる。

 この薬草が今の凛久の生命線になる。

 その程度の手間で値段が違うなら苦になる訳もなく、凛久は素直に頷いた。


「これってこのまま食べるんですか?」


「そのまま食べても効能があるが、とんでもなく苦いぞ。薬草より高くつくが、効能と味を考えると回復薬の方が良いな」


「そうですか……」


 採取して気が付いたのだが、ゲームで薬草を使ったことはあっても、どう使うのかまでは分からないため、凛久は蒼に使い方を尋ねた。

 どうやら、見た目通り苦いらしく、蒼はそのまま食べると聞いて顔を顰める。

 聞いただけでそんな反応をする味なら、凛久も回復薬の方を使うことにした。


「魔物がいる以上、無くてはならない物だから、ギルドも常に求めているんだ」


「なるほど……」


 何で常在の依頼なのかと思っていたが、どうやらそういう理由らしい。

 魔物は放っておくと大量に増え、人間が安全に暮らすことが難しくなるため、退治しないといけない。

 退治するとなると当然危険が増え、怪我をする者が出てくるため、早急に治療するために回復薬が必要になる。

 もしもの時のことを考えると、その回復薬の材料である薬草は常に必要なのだそうだ。

 

「じゃ、俺は依頼を受けた周辺の魔物狩りに行って来るから、戻ってくるまでここら辺で薬草を採っていてくれ。換金の仕方を説明しないといけないから」


「分かりました」


 門で凛久と会わなければ、蒼は町周辺の魔物の退治をしに行く予定だったそうだ。

 凛久の面倒を見ることで遅くなったが、依頼達成に向かうらしい。

 採取した薬草の換金場所なども教えてくれるらしく、ここなら魔物が出ることもないそうなので、凛久はこの周囲で薬草を採取して待つことになった。


「さて、続けるか……」


 自分の依頼達成に向かった蒼を見送り、凛久は薬草採取を再開せることにした。

 薬草がどれくらいの金額になるか分からないため、出来る限り採取しておきたい。

 根を傷つけないように、薬草の周りの土を掘って採取する。

 そんな地味な作業を、凛久は黙々と続けた。


「結構大変だな。こんな事ならシャベルも入れておけばよかったな」


 車でキャンプに行くとき、凛久は念のため折り畳み式のシャベルを持って行っている。

 しかし、今回は電車と歩きで向かうことになっていたため、持ち物を少なくするためにシャベルを置いてきた。

 こんなことになるならと、凛久はそのことを後悔していた。





「ただいま」


「あっ! どうも」


 薬草採取をしばらくおこなっていると、蒼が戻ってきた。


「……結構採ったな」


「そうですか?」


 ただ黙々と作業していたら何だか楽しくなってきたため、いつの間にか採取した薬草が山になっていた。

 この仕事は単調なだけに、大抵の者はすぐに飽きてやめてしまうものだ。

 それなのに、ここまで集めるなんて思っていなかったため、蒼は呆気にとられたようだ。


「じゃあ、帰ろうか?」


「はい」


 蒼の依頼も無事終わったらしく、キャンプバッグの中に入れていた手提げ袋に採取した薬草を入れ、凛久たちはギルドに戻ることにした。


「おかえりなさい。どうぞこちらへ」


「どうも。これ頼むよ」


「……蒼さんも手伝ったのですか?」


 ギルドに戻ると、蒼はまたも受付へと向かう。

 そこには、凛久の依頼を受けたあの女性がいた。

 その女性の案内により、蒼と凛久は別のスペースへと向かった。

 どうやらここが依頼品の受け取り場所のようだ。

 そこに着くと、蒼は凛久に薬草の入った手提げを渡すように合図する。

 それに従い、机の上に手提げを載せると、受付の女性は驚いたように尋ねてきた。


「いや、凛久1人でこの量だ」


「それはすごいですね。ギルドとしても助かります」


 魔物退治の依頼を出すことの多いギルドでは、頻繁に怪我人が出る。

 そういった人をすぐに治すためにも、回復薬は重要だ。

 しかし、材料となる薬草採取は単調な作業のため、大抵の人間は依頼達成に必要なだけの量しか採取しないものだ。

 これだけ多くの採取をしてくれる凛久に、ギルドとしても嬉しい限りだ。


「では、査定をしますのでお待ちください」


「はい」






「お待たせしました。全部で5000ドーラになります」


「どうも……」


 少し待っていると先程の女性に呼ばれたので、凛久は蒼と共に受付へと向かう。

 すると、査定が済んだらしく、女性から数枚のコインを出してきたので、凛久はそれを受け取った。

 どうやらこれがこの世界のお金で、単位がドーラらしい。


「おぉ、結構な額だな……」


「採取された薬草はどれも根まで綺麗に採取されていました。なので、薬草一株の買い取り額も全て満額です。日向の人は丁寧な仕事をすると聞きましたが、本当だったんですね」


「なるほど」


 薬草採取の依頼にしては高額の金額になったため、蒼は意外そうに呟く。

 それに反応した女性は、その理由を説明してくれた。

 その理由を聞いて、蒼は故郷である日向が褒められてため嬉しそうだ。


「さて、資金も手に入ったし、後は宿だ。食事付きのいい宿を知っているから行こう」


「はい」


 蒼も自身の受けた仕事の清算を終えて金額を受け取ると、凛久を連れてギルドの外へと出る。

 どうやら宿屋まで案内してくれるらしく、凛久は蒼の後をついて、夕方の町中を宿進んで行った。


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