37話
まずは今回の試合について簡単に確認しよう。
コートは通常のサッカーコートの4分の1ほどの大きさで、ゴールはハンドボールのゴールを用いている。まあフットサルのゲームに近いだろう。
ゲームは6人対6人の15分ハーフ。1年チームは2人の交代を自由に使える、というハンデがあることはすでに述べた。
ゴールキーパーは1人固定。キーパーも当然ペナルティエリア外では手を使えない。オフサイドはなし。
以上が今回のゲームの大体のルールだ。
(……なるほど、向こうはそういう感じね)
2年チームのボールで試合が始まった。
俺はすぐに向こうのフォーメーションを理解した。
2年チームは翔先輩・中野先輩というツートップを生かすために、2-1-2という形を取っていた。(キーパーを除いた5人のフィールドプレイヤーの配置をフォーメーションとして記す)。経験のほとんどないであろう岸本先輩がキーパーをしているのが弱点と言えるかもしれない。
この点だけは1年チームが有利と言えるかもしれない。今井キャプテンは本職のキーパーなのだ。2年チームの2-1-2に対し、1年チームは1-2-1-1というフォーメーションだ。(あくまで便宜的なものではあるが)。ワントップには高さがあり身体の強い高島を置き、その下にはこちらのチームで一番攻撃的センスがある安東を置く。俺と竹下は守備を重視したプレーを心掛けるが、攻撃にも出ていかないと前線の枚数が足りないだろう。そして最後尾のリベロ(イタリア語で自由な人という意味)には太一を置く。これが俺たちのフォーメーションだ。
太一を最後尾に置くのは賭けでもあった。
1年生同士の練習の中では抜群の読みで存在感を示していた太一だったが、2年生とはまだ一度も対峙していないのだ。2年生相手にどれだけその守備力が発揮されるのか……正直に言えば不安もあった。最初は交代要員としてコート外からゲームを見させた方がリスクは少ないのではないか?という気もしたが、最終的には太一という人間を信じた。
太一の相手の攻撃を読む能力が発揮されれば、翔先輩・中野先輩と言えど簡単には得点を重ねられないだろう、と思えたからだ。もちろん、太一だけでなくその前にポジションを取る俺と竹下がきちんと連携しなければ守備は崩壊してしまうだろうが。
「おい、吉川。お前ら帰宅部のアイツ……マジで試合に出してんじゃん。超ウケるんだけど」
俺がマークに付くと、試合中にも関わらず中野先輩が話しかけてきた。
ボールは2年チームが後ろで回していた
当然俺は無視した。
そりゃそうだ。試合中のそんな話にいちいち付き合ってられない。
「なあ……アイツどう見ても素人じゃん。それをDFラインに置くなんてお前らマジで勝つ気ないの?」
中野先輩の挑発がさらに続いた。流石にこうも続けて話しかけてくるとは想定外のことだった。
「……まあ『揉めた直接の原因は自分だ』って言い出して来たんで」
仕方なく俺も適当な返事を返した。
むろん本心では(うるせえな、試合中に話しかけてきてんじゃねえよ。アンタらには負けねえよ!)と思っていたのだが、せっかく太一の仕掛けた計略が成功し1年チームを大いに舐めてかかってきてくれているのだから、この方針を続けた方が良いだろう……俺はそう答えておいた。
「くく、あんなヤツでもそれなりに責任感はあったんだな……。ま、俺たちに舐めた口利いたアイツは絶対許さないけどな!」
そう吐き捨てると中野先輩は急激に自陣側にダッシュした。
(ヤバイ!)
油断していた俺はマークに付いていくのが一瞬遅れた。そこにDFラインから縦パスが入る。
中野先輩は鮮やかにターンしてボールを足元に収めた。
こうなっては迂闊にボールを奪いには行けない。ある程度の技術があるFWならば飛び込んできたDFをかわすことは容易だからだ。完全にかわされてしまってはよりピンチが深まるだけだ。DFはじっくりと対応しなければならない。
ゴールエリア中央辺りでボールを持った中野先輩は、やや右サイドに向かってドリブルを仕掛けてきた。
(させるか!)
この2週間のフィジカルトレーニングで俺は自分のキレが増していることを実感していた。
「中野先輩のドリブルにも付いていける!」ということを最初の一歩の対応の段階で感じていた。
だが……俺の予想に反して、ドリブルを始めた中野先輩は俺を抜き去る前にパスを出した。
ノーモーションでほぼドリブルの足の振りのまま出されたスルーパスだった。ボールスピード自体は緩いものだったが、俺の後ろに構えていた太一と竹下も完全にドリブルで抜きに来ることを想定していたのだろう。ゴール前左サイド奥に出された斜めに切り裂くスルーパスに完全に虚を突かれた。
そこに走り込んできたのは翔先輩だ。
キーパーの今井キャプテンが飛び出してきたが間に合わない。
翔先輩はダイレクトの右足インサイドで簡単にゴールに流し込んだ。
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