27話

(……あれ?太一のヤツ、マークが甘くねえか?)


 俺が最初に感じた違和感はそんなものだった。

 サッカーにおける守備のやり方には、幾つかの方法や考え方がある。

 太一が先ほどからやっているように『ドリブルで仕掛けてくる敵からボールを奪う』というのももちろん立派な守備だし、『ボールを持っていない敵をしっかりとマークする』というのも基本的な守備だ。

 しっかりと密着したマークがいる人間にパスを通す、というのは攻撃側にとってリスクが高いし、技術も必要になる。

 ゴールへの最短距離の敵をしっかりとマークしてパスを出させなければ、それだけで守備側は時間的余裕が出来て有利になるのだ。

 太一は1対1で覚醒する前から、この点ではしっかりとした守備をしていた。フリーになりそうな敵を見つけては、パスが出て来ようが来なかろうがしっかりとマークをしていた。

 もちろんパスを通されることもあったが、勤勉なマークが敵チームは嫌だったはずだ。


 ところが今、太一はマークすべき高島の後方2メートルの位置をタラタラ歩いている。


(……1対1で止めれば良いって考えか?)


 太一の先ほどまでの対応を見ていればそれも可能だろうが、守備の本来の考え方としては正しくない。

 対峙するのは必ずしも高島や吉田といったレベルの相手ばかりではないからだ。少なくとも我が弱小サッカー部の翔先輩や中野先輩程度でも、1年生よりは遥かに能力が高い。初日で1対1を止めてみせた太一の対応力は特筆すべきものだが、1年生を止めた程度で自信過剰になってもらっては困る。


 案の定、高島に後方からの縦パスが入った。

 太一が遅れてチェックに行ったが、高島は余裕を持って前を向けるほどの距離だった。


(ほれみろ、太一!)


 だが高島は太一のマークがもっと接近していると勘違いしたのか、余裕があったにも関わらずすぐにパスを後ろに戻してしまった。


「高島、今前向けたぞ!」


 向こうのチームから声が掛かった。

 その声に高島はどこか不服そうだった。

 傍から見ているのと当人とでは感じているプレッシャーが違う、ということなのだろう。つまりそれだけ太一の今までのディフェンスがプレッシャーになっている、という意味では太一の勝利とも言えるかもしれない。


 敵1年チームは後方にボールを戻して、再び機を狙っていた。

 ドリブルで仕掛けることがほとんどなくなった分、ボールを持っていない人間のフリーランニングは活発になっていた。

 だがディフェンス側の本音で言えば、このレベルのパス回しならば強引にドリブル突破に来られた方が怖い。技術が低くともガチャガチャと混戦になって突破される確率がどうしても残るからだ。従って現在の1年チームの攻撃は、ディフェンスにとっては守りやすいと言える。



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