26話

 先ほどと同じチームで2本目のミニゲームが始まった。


 太一が守備の戦力としては大いに計算できることが分かったので、ポジションも自然と定まってきた。

 大雑把に言えば、キャプテンと太一が後ろ目にポジションを取り守備を意識して、俺と安東は前目に位置し攻撃を意識するといった感じだ。もちろん4対4のミニゲームだから、全員守備全員攻撃が基本なのは言うまでもないが。


 展開としてはかなりこちらのチームが優勢だった。

 未経験者の太一にチームでも随一のスピードを持った吉田が抑えられたことは、他のメンバーにもかなりの影響を与えていた。長身の高島が一度だけ太一に向かって1対1を仕掛けたが吉田以上にあっさりとボールを奪われてからは、誰も太一に対してドリブルで仕掛けることはなくなった。

 ドリブルが通用しないとなるとパスで崩してゆくしかないのだが、先述した通り向こうのチームはそもそもの基本技術が低い。パス回しにもミスが多いので、こちらとしてはそれを拾い攻撃してゆくだけで、あっさりと得点を重ねていった。


 ちなみにパスをつなぐ、というのはサッカーにおける最も基本的な技術だが、それだけに最も大切で奥の深い技術であることも間違いない。

 ボールを蹴る、来たボールを自分の次にプレーしやすい場所に止める、そして次のスペースを見つけ走る……サッカーは突き詰めればこれだけの単純なスポーツと言える。

 だからこそ、そこには技術の差が残酷なほど表れる。強いチームというのは何も特別な戦術を使ったり、複雑な攻撃のパターンを幾つも持っていたりするわけではないのだ。基本的なことをどれだけ正確にやり続けられるか……それが強さなのだ。




(どれだけミスをしてもパスで来るか。いや……だが少しずつ動きが変わったな!)


 2本目のゲームも半分ほどが経過し、すでにこちらのチームが4点ほどリードしていた。

 向こうのチームは完全に劣勢だったが、最初のように吉田や高島の強引な突破で攻めてくることはなかった。後方からパスをつなぎ周りの人間が走ってフォローする、基本に忠実な攻めを繰り返していた。

 どこにスペースを見つけるのか、どのタイミングでスピードを上げるか……まだまだ精度は低いが、考えてプレーする傾向が見られるようになってきたことは進歩だろう。


 だが……そんな彼らの地道な進歩を嘲笑うかのように太一は急激な進歩を遂げていた。

 俺は才能なんていう言葉を信じてはいなかったが、目の前でこうも急激な進化を見せられては……才能という言葉を使わざるを得ない。

 世の中はあまりに残酷だが、その一つの表れは能力の差だ。

 向こうの1年生チーム4人は、試行錯誤の末に攻め方を変え新たな攻撃パターンを試してきたのだが、そんな努力と苦労に嘲笑を浴びせるように太一は数段飛ばしてサッカーというものを理解し、徐々に体現していった。


 抜群の読みと一瞬のスピードで、俊足の吉田を1完封した太一だったが、向こうが1対1での仕掛けを避けるようになったため、少しだけ手持ち無沙汰の時間があった。

 だがほんの1分も経たないうちに、太一は次の仕事を始めていた。



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