7話
「……翔先輩たち、来ませんね」
「そうだな……まあ来ないヤツのことを気にしてもしょうがない。目の前の練習に集中だ、吉川!」
「はい!」
キャプテンの
今井先輩は2年生の中でも元々中心的な存在だったから、新キャプテンに任命された時も、誰も異存はなかった。
180センチ85キロの恵まれた体格を誇り(筋肉の塊としての85キロというわけではなく、ポッチャリとした85キロであるが)、ポジションはゴールキーパーをしている。
あまり細かい所に気付くタイプではないが、おおらかな性格で誰の話もきちんと聞くので人望は厚かった。
それにしても……である。
先輩たちが部活に来ないのである。2年生で来ているのは今井キャプテンだけだ。
その他はすべて1年生。……すべてと言っても7人だけ、総勢8人では本格的なサッカーの練習にはならない。
我が向陽高校サッカー部が夏の大会で敗退し、3年生が引退したことはすでに述べた。
引退した3年生は8人の部員が在籍していた。弱小校らしく必ずしも全員が毎日真剣に部活に打ち込んでいたとは言えなかったが、試合の時などは誰も欠席しなかったし、3年生ほとんどがレギュラーだった。
残ったのは1年生が7人、2年生が今井キャプテンを含めて7人の計14人だけである。1年生は初心者も多く戦力としては頼りないが、2年生はほとんどが元々レギュラーだった。
その2年生のうち今井キャプテンを除いた6人全員が、新チームの門出とも言える今日の部活に顔を出していないのである。
「……先輩何か聞いてないですか?2年全員来ないなんて、何かあったんじゃないですか?……あ、それかキャプテンの連絡ミスで練習明日からと勘違いしてるとか?」
部活が終わった後、俺はキャプテンに尋ねてみた。
「そんなことねえよ!……まあそれで明日から来るなら何の問題もないけどよ」
連絡ミスでたまたま来ないだけなら、キャプテンの言う通り何の問題もないわけだが恐らくはそうではない。その予感を感じているからキャプテンも歯切れの悪い答えをしたのだろう。
直感的に俺はそんな気がしたが、それ以上キャプテンに突っ込んで尋ねることは出来なかった。
結局その日先輩たちは部活には全く顔を出さず、今井キャプテンと1年生だけで身の入らない練習をして終わった。
次の日も同じように先輩たちは練習に顔を見せなかった。
今井キャプテンが1年生に意識的に声をかけ練習を盛り上げようとしているのは伝わってきたが、1年生の間にも動揺は伝わっていた。明らかに練習は集中を欠いて、言われたことを何となくこなすだけのものになっていた。
俺自身も集中を欠いているのが自分で分かった。
だってこのままいけば……翔先輩をはじめとした2年生の6人が部活に出てこないことになれば試合は出来ない。サッカーは11人でやるスポーツなのだ。
試合が出来ないことがはっきり確定ということになれば、現在のメンバーの中からも「俺も辞めるわ」と言い出すヤツが出てこないとも限らない。……いや、間違いなくそうなる!なんたって我が向陽高校サッカー部は弱小なのだ!本気でサッカーがやりたいヤツは別のチームを選ぶ。つまりここには残りカスの連中しか残っていないのだ!
……言ってて自分で悲しくなったからもう止めておくが、まあ訂正の余地はほとんどない。そうなってしまえば公式戦どころか、部そのものが廃部になってしまうということもありえる。
(……一応、高校ではサッカーを頑張ろうと思っていたのに……ツイてないな)
ネガティブに考えすぎだろ、と自分でも思ったが、実際先輩たちが顔を出さないという事実の前には、そんな負のスパイラルを止めることは出来なかった。
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