6話
「ま、まあ……3年生が引退したら部員は15人もいないんでしょ?そうしたら吉川君も絶対レギュラーになれるから大丈夫だよ!……ところで太一君は夏休み何してるの?」
奈緒がフォローするふりしてグサグサ俺の心を刺していったが、もう気にしないようにする。……二人とも本当に悪気はないんだ!この二人が分かった上で俺の心を傷つけにきていたんなら、俺グレちゃうぞ!
「ん~、僕はしっかりと休むよ。なんて言ったって、夏休みは休むためにあるんだからね!」
なんの後ろめたさも感じていない表情で太一は胸を張った。
これだけ堂々とそう言われると「まあそれも良いのかもしれない」と思ってしまう。なんにせよ太一は学生の本分である学業で学年トップクラスの成績という文句の出ない結果を出しているのだ。
休みの日の太一は、1日12時間は眠るそうだ。育ち盛りの高校生だから……というのを流石に越えたレベルではないか?と疑った親が病院に相談に行ったが、なんら異常はなかったとのことだ。ひょっとしたらこの長時間の睡眠が太一の頭脳を支えているのかもしれない、という気はする。
「朝川はどうするの?」
「私は……生徒会と部活かな。あ、勉強もしなきゃだね!」
朝川のような各方面から求められる人間は忙しそうだ。生徒会で書記をつとめ、バスケ部では1年生ながらレギュラー……おまけに進学塾にも通っているそうだ。
ただ彼女は、忙しいことをグチったり、疲れた顔を見せたりしたことが全くない。そうしなければいけない……という義務感からくるものではなく、純粋にすべてを楽しんで行える人間なんだろう。彼女の表情を見ているとそう思う。
「あんまりムリしちゃダメだよ……朝川さん。夏休みはしっかり休まないと」
本当に心配そうな表情で太一がそう言った。太一からすれば、彼女の活動的な生活など異常なものに見えているのだろう。……ただ全員が太一のような怠慢な人間だったらこの日本は滅びてしまうだろう。
「ありがとうね、川田君!」
普通なら「アンタはもうちょいシャキッとしなさいよ!」と言いたくなりそうなものだが、こちらも純粋に太一のことを気遣えるのが朝川のスゴいところだと思う。
――――――――――――――――――――……
そんなわけで気合いを入れて臨んだサッカー部の夏の大会であるが、我が向陽高校は二回戦で敗退した。
一試合目は4ー1で勝ち、2試合目は1ー2で負けた。
ここ数年はどの大会でも一回戦負けが続いていたので、それに比べれば良い結果と言えるかもしれないが、これで引退する3年生の先輩たちは泣いていた。
そんなに必死で練習してきたわけでもない先輩たちでも悔しいんだ……と不思議な気もしながら、俺も少しだけ泣いた。
2試合とも途中からではあったが、俺も少しだけ出場させてもらえていたのだ。俺がもう少し頑張って良いプレーをしていれば、チームは勝てたかもしれない。サッカーはチームスポーツだから自分一人ではどうしようもないと思う時もあるが、それでもチームが勝つには当然一人一人の力を結集するしかないのだ。
1年生の俺にとってはこれが公式の初の大会だった。夏休みが明ければ3年生は部活を引退し、1年と2年だけになる。
これからのチームの中心となれるように、そしてもっとチームが強くなるように頑張ろうと、ひそかに俺は誓った。
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