48.友達と軽音部の公演。

 俺は無意識に声を上げていた。そりゃあ、声も上げたくなる。だって、倒れたのは一番端っこにあるたったの一本だけだったのだから。


「えっとー、一本ですね」


 そう言った男子生徒の声もやや呆れ気味だった。笑いを通り越して呆れてしまったのかもしれない。それにしても、ピンが一本だけしか倒れなかったのはコントロール力に欠けていたからなのだろう。

 だから、今度はボールのコントロール力を優先して投げてみた。すると、今度は力を抜きすぎたのかペットボトルが後ろに少しだけスライドした。


「ふっ。二回合計で倒れたピンの合計は一本になります」


 こいつ俺のことを鼻で笑いやがったな!? 許さぬ。許さぬぞぉぉぉぉー!


 という願いも虚しく、俺は景品である「あめ」を不服ながらももらい、俺たち三人は教室をあとにした。


 ×××


茅野ちが やとは最近どんな感じなの? 付き合ってないの? 一年のときは結構いい感じだったじゃん」


 そう俺に聞いてきたのはマンバンだった。すると、ウルフも興味深そうに俺のほうを見てきた。


「うん、付き合ってない」


 下手に根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だ。ここは相手の質問に答えるだけに留めておいたほうが相手も興味を失ってくれるだろう。


「そっか。じゃあ、遊びにとかも行ってないの?」


 なおもマンバンは俺に質問を投げかけてきた。


「うん、行ってないかな」


 嘘だった。正直言うと、本当は俺のほうから茅野と遊んでいるという報告をして、こいつらには俺の境遇に嫉妬してほしいくらいだった。

 でも、この話に関しては茅野のプライベートでもある。だから、俺が気軽に友達に言いふらしたりするのはなんか違うと思う。


「嘘っぽいなー。でも、もう軽音部の部室に着いたからまた後で聞こっと」


 マンバンが俺たちの先頭に立ってガラガラガラと軽音部の部室のドアを開いた。そして中に入る。その瞬間、俺の耳にはマイク越しの女性の声が聞こえてきた。


『――大嫌いだった』


 そして音楽が鳴りやんだ。どうやらちょうど曲が終わったところらしい。マイクを持っているボーカルらしき女子が軽く一礼をする。


『ありがとうございました! ということで、メンバー紹介をします。私の左後ろにいるのがドラムのまい!』


 すると、まいと思われる人物がドラムをリズミカルに叩いた。と同時に、観客側からも歓声が上がる。


「まいぃぃぃ―――っっ!」


「カッコイイよ――――ッッ!」


 俺はその歓声を聞いて、この後 浅間あさ まも同じように、いやこの人以上に歓声を浴びるんだろうな、と何故か思っていた。


『そして最後がわたし、ギター兼ボーカルのはるかって言います!』


「「キャ――――ッ!」」


「はるるぅぅぅぅ―――――っっっ!」


「かわいいぃぃぃ―――――ッッッ!」


「はるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――――――ッッ! 輝いてるよぉぉぉ――――!」


 先ほどの女子の倍以上の歓声だった。傍目から見てもこのバンドで一番人気なのは、今自分で自分のことを紹介したギター兼ボーカルのはるかって子なのだろう、となんとなく予想ができる。


「歓声すごいな」


「ね。鼓膜が破れそう」


 この歓声のでかさに二人も少なからず驚いているようだった。

 それにしても、歓声の大きさでその人の人気度がなんとなくわかってしまうのもちょっと不憫だよな。まあ、それがステージに立っている者のモチベーションにもつながるのかもしれないが。


 と、その後も彼女らの演奏が続き、ボーカルの美しくも力強い歌声、そして楽器を弾く者たちの巧みな技術に俺は魅了されていった。


『ホワイトストロベリーでした! ありがとうございました!』


 気づいたら最後の曲も終わり、彼女らはステージで最後に深く挨拶をする。と、みなが一斉に出口に押し寄せる。


「俺たちも行くか!」


「そうだね。もうそろそろ店番の時間だし」


 そして自分たちもわらわらと人が集まっている出口に並ぶ。


 俺がその間ステージのほうに聞き耳を立てていると、ステージ上では何やらメンバー内で「緊張したねー」やら「楽しかったねー」やらキャッキャウフフと話がされていた。


 ×××


 外に出ると、日中の眩い光が俺の瞳孔を強く刺激する。そのせいで、まともに目が開けられない。


 おそらくその理由は、つい先ほどまでいた軽音部の部室のせいだろう。あそこは、ステージ上だけがライトに照らし出されていてその周りはほぼほぼ真っ暗だったからな。


「眩しくね?」


 隣にいるマンバンが俺の思っていたことを代弁してくれていた。


「それな」


 ウルフもそれに同調した。そして俺は、五分ほど前にウルフが言っていた言葉が気になっていたのでそれを聞いてみることにした。


「あのさ、二人ともこの後、店の当番なの?」


「「そう」」


 二人の声が重なった。


「だから、もしあれだったら店番終わったら連絡するわ」


 マンバンが本当にそう思ってるのか思っていないのかよくわからないトーンで言った。


「わかった」


 俺がそれに了承すると、「じゃ、あとで」と言うマンバンとこちらに数秒間だけ手を振ってから正面を向いた二人が二号館の校舎に入っていった。

 俺はそれを見送ったあと、七海に一通のメールを入れた。そのままスマホのホームタブを一度だけ押して、『くれない祭』と書いてあるこの文化祭のためだけに作られたアプリを開いた。


「腹減ったよなー」


 俺は誰にも聞こえないような微かな声で呟いた。

 と、一つ気になった模擬店を目にした俺は、彼らからかなり遅れて二号館の校舎に入った。俺はそのまま階段を駆け上がり、三階に到着した。


 はぁ、地味に疲れたぜ。それにしても、学校の階段を上っただけでこんなに疲れるとかかなりの運動不足なのでは? 今回を機にこれからは毎日二時間ほど外を走ろうかな、と思いました!

 思っているだけで実際にやるかどうかはまた別問題です。と自分で自分に哀れな言い訳を言い聞かせながら歩く。すると徐々に、ある食べ物の香ばしい香りが俺の鼻を突いてきた。


 うぅーん、いい匂いだこと。


 その正体はどうやら俺が目的としていた、廊下で食べ物を売っているあの模擬店らしい。


「おいしいおいしい肉巻きおにぎりを買っていってくださーい!」


 いや、肉巻きおにぎりじゃなくて肉巻き棒だったはずなんだが……。


 しかし、本人からするとそんな些細なことはどうでもいいのか、なんか見ているだけでこっちまで元気になれそうな恰幅のいい男子生徒が何故か肉巻き棒ではなく、肉巻きおにぎりを全力で宣伝していた。うん、見るからに肉巻きなんちゃら好きそう。

 そしてその全力の宣伝を耳で聞きつつ、歩みを進めて店の前で立ち止まった。看板を見てみる。


 やっぱり、間近で看板を見ても「肉巻きおにぎり」なんて言葉は浮かんでこないんですけどー。と、俺は肉巻きくんに文句を言ってみることにする。


「あのー」


「ありがとうございます! でも、僕は宣伝大使なだけなので購入は隣のレジでお願いします!」


「はあ……」


 それ以上俺は言葉を続けることができず、おとなしく肉巻きくんの隣、つまり列ができているほうに並ぶ。まあ列といっても、並んでいるのは俺を含めて三人だけなのだが。


 すると、模擬店の後ろの教室の中から知っている顔が出てきた。

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二作目連載作品

『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』

https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839


↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。


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