8.地獄の始まり
その先の言葉を、俺は反射的に拒絶していた。
その先を言わせてはいけない……。
「私はあなたと──」
「おい、もうこの駅で降りないと……、乗り換えが」
「えっ!? うん。降りよっか……」
俺は確信していた。
同じ
しかし、俺が通っているルートが一番安く、一番時間がかからない。
とすると、茅野がよっぽど変人ではない限り、俺と同じルートで行くのは明白。
だって、俺と茅野は同じ駅から学校に向かっているんだから。
茅野の話を遮ってしまった罪悪感がないわけではないが、背に腹は代えられない。
うん、しょうがないよね!
そして俺の見立て通り、茅野と俺の学校へのルートは一緒だった。
結果、自分らはずっと行動をともにしていたわけだが、俺が茅野の話を遮ったこともあり、互いに気まずく、特に会話をすることも無かった。
彼はまたもや来た道を引き返す。
おおー、こうやって表現するとなんかかっこよくね!?
そんなことを考えながら、俺は教室の椅子に座る。
俺は授業が始まるまで窓から外を眺める。
今日はなんだか、やけに天気がいいな。あそこまで透き通っている空は久しぶりに見た気がする。
その時、俺の席に振動が伝わった。
「あ?」
「おいおい、ヤンキーでも最近はそんな反応しないと思うぞ。にしても、いつにも増して顔色悪いな。なんだその顔、もうそろそろ死ぬんじゃねえの」
話しかけるついでに俺の席を蹴ったのは、同じクラスの
「……」
「ついに、喋れなくなっちまったか。よし、俺がお前の悩みの種である、好きな人を当ててやろう」
「……」
「岡田?」
俺の沈黙を無視して
その直後、こちらに影が忍び寄ってきた。
「なに、なに、なんの話してんのー?」
その声に浅間が素早く反応した。
「
「いや、こいつが見ての通り最近顔色悪くてよー。どうやら恋で悩んでいるようなんだ」
「へー? 案外乙女なんだね、日方って」
浅間はこれに対して大きく頷いている。
「そうなんだよ。それで今、それが誰なのか探ってたところ」
すると、七海は顎に手を当てた。
「なるほどねー。私も参加していい?」
俺は何も言わずに七海を睨んでやる。
「おうよ。七海がいれば千人力だな」
俺の睨みは浅間によっていつの間にか無効化されていた。
「……じゃあさっそく、奏でしょ?」
はあ……、これ絶対俺の好きな人が誰か分かるまで続くやつじゃん。最悪だ。
だが、こいつらに伝わると余計な事態を招くのは火を見るよりも明らか。どうすれば……。
そう思っている間にも彼らは様々な生徒の名前を挙げていく。
「沢田ちゃん?」
「島田だろ?」
こうなったらもう逃れられない。
授業はまだかな……と時計を見てみるが、授業まではまだ一〇分もある。
移動教室でもないしな……。
答えなかったら答えなかったで何をされるかわかったもんじゃない。想像しただけでも恐ろしい。
こうなったら全ての名前を否定し続けるしかないな。
「長谷川か?」
「んー……」
「真姫ちゃん?」
「んー……」
「じゃあ、前田?」
「……」
「りりかちゃん?」
「いやー……」
「こいつこう見えても、どの女子とも分け隔てなく交友あるからなー。難しすぎる」
と言ったのは浅間だ。
こいつらバカなのかな……。
当てずっぽうで名前をいくら言ったところで当たるわけねぇだろ。
時計を今一度確認してみると、授業が始まるまでは残り二分弱だった。
もうそろそろあんたらも席に着いた方がいいんじゃねえの?
そして先生よ、早く来てくれ……。
「椿ちゃん?」
その名前が出た瞬間「えっ」と声を出してしまいそうになった。
嘘だろ、当てやがった。
だが、ここで知られるわけにはいかない。
「あー……」
よし、乗り切った。
って、あれ? 俺が反応した後から浅間と七海からの反応がない。
恐る恐る顔を上げてみると、彼らの顔はにへらーと満面の笑みに満ちていた。
その直後に教室の鐘が鳴り、彼らは自分の席に戻って行った。
「最低で最悪だ……」
その鐘は、俺の地獄の高校生活の始まりの合図を意味するものだったのだと思う。
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二作目連載作品
『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839
↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。
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