7.己の弱さ。
ガチャッ。ヒュー、ストン。
電車をつなぐ連結路のドアの方から音がした。
誰かがこちら側の車両に移動をして来たのだろう。
誰だろう。
「……え、なんでお前がここに?」
ついその言葉が、口から反射的に出ていた。
彼女には聞こえていなかったように思う。
そう、そいつは俺が昨日喧嘩みたいなことをすることになった相手、
今度こそ俺はこの状況を受け入れようと思う。
あれは絶対に茅野だ……。
あいつを見間違うわけがない。
あれは茅野椿だ。
もう現実逃避なんかしない。
彼女の名前を呼ぶんだ。
「ちガ―」
自分の思うように声が続かない……。
喉元まで出掛かっている言葉が、彼女の名前が、彼女に届く前に、か弱く、消えていく。
なんで、なんでだよ……。
そう思っている間にも、足音が着々とこちらに近づいて来ているのがわかる。
先程はあいつが居ることに意味を見出していてあまり気になってはいなかったが、改めて考えてみると、そもそもなんであいつがここにいるんだ……。
時間が経過するごとに自分の頭の中の思考回路がショートしていく。
今の俺のショートした頭では彼女が自分と同じ最寄り駅であるのだろう、ということぐらいしかわからない。
こちらに近づいてきている足音がピタリと止まった。
俺はぼやけていた焦点を瞬きをすることによって合わせ、そこにいるであろう彼女に視線を向ける。
「………」
「………」
沈黙が、静寂が、この場を支配する。
「
その言葉を発した主の声は、俺にでも分かるくらいには震えていた。
しかし、声を震わせながらも視線は俺一点を見つめ続けている。
決して視線は離さないから、とでも俺に暗に伝えるように。
そう、最初に言葉を発したのは俺ではなく、茅野だった。
情けない、なんて情けないんだ……。
俺は女が「男なんだからやりなさいよ!」だとか
「男なのに根性なしー! かっこ悪ー」だとか
「男なのにそんなことも出来ないんだ!? だっさー」
だとか、そういう女尊男卑的な発言が嫌いだ。
これは一見すると、男は強い、男には根性がある、と男が頼りにされて尊重されているようにも思える。
しかし、それは違うと思う。
男達は世の女達に利用されているだけなのだ。
彼女達は決して男共の能力を信じてこういう発言をしているわけではない。
男という
そもそも、男だからなんだと言うのだ。
確かに男にしかできないことがある、というのも事実だ。
しかし、世の女達は簡単に男という性を利用しすぎではないだろうか……。
自分でやってみて、色々な試行錯誤をし、沢山の失敗を積んで、それでもできないのであれば、そのときこそが男の出番だと思う。
そうだ……あとひとつ言いたいことがある。
男の、女にモテたいからという純粋な下心を悪用するのもやめようね!
と少し話はずれてしまったが、話を戻すと、常日頃から以上のようなことを思っている俺でも、今の状況は本当に情けないと思う。
なぜなら、今のこの気まずい状況を作り出すことになった根源は俺なのだから。
俺が昨日電話で、あんなことを言ってしまったがために……。
しかし、過ぎたことは悔やんでもしょうがない。
ここはファンタジーな世界でもなければ、異世界でもなく、なんせ俺が時を戻せる魔法を使えるわけでもないのだから。
「あの―」と俺は勇気を振り絞り、微かな声で言った。
しかし、茅野はその言葉を気にも止めない様子で「私には彼氏がいるの」と言った。
俺は茅野の口からその言葉を聞くことによって少なからず驚きはしたが、「ああ、知っている」と心の中だけでぼそっと呟いた。
「それでも私は、あなたと―」
えっ。予期していなかった言葉が続き、俺は動揺を隠せなかった。
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二作目連載作品
『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839
↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。
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