その後
屋敷の私室まで戻った後、シャルロットが「すまねェ」と頭を下げてきた。
ヒロインはここで微笑みながら彼を許した、とゲーム本編では過去回想で述べられていたが、私はどうするべきだろうか。
考えた結果、さすがにそこまで聖人にはなれないと思った。
それにシャルロット王子の将来も不安だし。何か言わねばならないだろう。人の上に立つ者が、甘やかされたまま育っていいはずがない。
原作の流れを変えないように言葉を選びながら、彼を叱る事にした。
「まったく、シャルロットのおかげであやうく私も彼も死ぬところでしたわ」
「うっ、それはっ、本当にすまねェ」
「へたをしたら、両国の仲が悪化して、戦争に発展したなんて事もあるかもしれませんわね」
けれど、状況を思い出しながら述べていったため、さすがにちょっと言いすぎてしまった。
「それは悪かった!」
「でも、私達は生きてここにいる。だから、ちゃんと謝ってくれたので水に流しますよ」
彼は「えっ」と言う顔になる。
もっと責められると思ったのだろう。
「そんなんで良いのかよっ。何でだ! だって、死ぬかもしれなかったって」
「貴方は一度間違えた事を繰り返すような愚かな人間なのですか?」
「違う!」
「なら、大丈夫。今日あった事を忘れなければ良い王になれると信じていますから」
フォローのつもりで少し持ち上げたら、彼はなぜか感極まったかのように涙ぐんだ。
えっ、そこまでの反応はゲームでもなかったのに。
彼は決意したような顔でこちらに述べてくる。
「お前は強くて良い女だ。今改めて思った、俺にはお前が必要だ。だから俺は、お前の事を諦めねェ。誰が相手でもだ」
どうしてそうなるんだろう。
面倒な事になりそうな予感がした。
困った顔をしてフィディル王子に視線を向ければ、彼も同様に困った顔をしていただけだった。
さすがの彼でも、こんな状況でどう対応すればいいのか分からなかったのだろう。
その後、大人なフィディル王子もシャルロットを許したので、この件は誰の耳にも入れない事になった。
三人だけの秘密というやつだ。
まあ、原作ストーリー中に必ず掘り返される事になるのだが、色々あって疲れたので今だけは忘れておきたい。
帰り際、フィディル王子に足の心配をされた。
「怪我とかはしていないですよね」
「ええ、幸いにもくじいてはいなかったので。かすり傷一つ負っていませんよ」
「良かった」
ほっとした彼は、やはり多くの女性が夢中になるだけはある。
紳士で、優しくて、思いやりある人だ。
そんな彼は、私の手をとって口づけた。
「競争相手が増えてしまいましたが、今日の貴方にこれ以上の心労をかけるのは心苦しい。今はこれで」
あまりにも自然な動作でなされたそれに、思わず赤面してしまった。
色恋にあまり興味がないと言っても、一応年頃の女の子なものだから。
そのまま私は、ただぼうっとした状態で彼が帰っていくのを見送る事になった。
ヒロインと攻略対象二人の始まりの思い出に意図せず登場してしまう事になったが、これから一体どうなるのだろう。
そもそもただ意地を張っていただけなのに、なんで彼らはヒロインではなく私にかかわってきたのだろうか。
考えるべき事は山ほどあったが、疲れた頭はうまくまわってくれなかった。
意地をはっていただけなのに、なぜか乙女ゲームの攻略対象に好かれてしまいました。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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