第5話

ラクル。


–––朝から電話を無視した。

気分が悪かった。

もう無理なようだ。

自分を嘲笑った。

壊れると笑う場面も可笑しくなる

ようだ。

どうせ、最後だ。

少しの贅沢は許されてもいいだろ

う。

なぁ。カミサマ。

服を買う。寿司を食う。

おばあちゃんの金はくすねてき

たし、どうせあの家はもう無理だ

ろう。

どうせいい思い出なんてないんだ

見つかる前に。早くしよう。

自然と足が速くなる。

何しろたのしみなのだ。

こんなたのしみしかないんだな。

持ち金は全て使い切った。

替えを買ったお釣りもどこかへい

った。

さぁ。準備だ。

まぁ階段をのぼるだけなのだが。

空は近づくにつれて輝いて見え

た。

左手をかざし、微笑む。

二度と見られないだろうから。

じゃあな。

いつも手を切り、いじめられ、殴

られて。

一番楽なのはこれと気づいた。

この世も地獄で今から行くのも地

獄とは。

救われないな。

しょうがない。クソが。

まぁ悔いはない事もないが諦めも

ついた。

この現状が変わることはないんだ

から。

柵にもたれる。

生きていて喜ばしく、怒り、哀し

み、楽しんだことは無かったな。

出来るなら心がほしかった。

あいつらの所為なんだがな。

そろそろ行くか。

足音が聞こえる気もする。

知らない人の声も聞こえる。

流石にここまではついて来ないだ

ろうが。

そして、俺は今ここにいる。

もうそろそろだ。

君も物好きだな。

その物静かな笑みはこの世

の何よりも綺麗だった。


酷いね。

私は笑う。

今生の別れだね。


じゃあな。

じゃあね。


明日を信じた少年少女は、

始めて喜びを知ったのだ。




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