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 当日、誕生日プレゼントを渡すと、彼女は予想通り目をきらきらに輝かせて喜んだ。

「河村さん、私、とっても嬉しいです! 本当にありがとうございます。これを河村さんだと思って、毎日抱きしめて寝ます!」

「やめろ」

 と、一層すると、彼女は分かりやすく顔に川の字を書いて落ち込んだ様子を見せる。

「皿は使ってこそだ。抱き枕には寝心地も悪いだろ」

「でも……」

 なんとも不満そうにして、下から彼女の目が俺を見つめ上げている。全く逸らさない。なんなんだ、その純情な瞳(め)は。子供か。大体、お前はいつも俺のこと見すぎなんだよ。顔に穴が空くわ。

「……今度、それにカレーをよそってやるよ。水黽堂(ここ)に来たときのお前専用のカレー皿だ」

 言うと、彼女はまた恥ずかしげもなく、飛んで喜ぶ。ほら、やめろって。お前、足の怪我はどうしたんだよ。そんなに飛び跳ねたら皿が落ちるだろ。それは俺の力作なんだ。試行錯誤してお前の為に作ったんだぞ、分かっているのか。いや、その顔は分かってないな。

 その様子に皆が笑う。俺も思わず吹き出した。俺の笑い声が、周囲の笑い声に上手く混じった。

「本当に、お前は」

「え? なんですか?」

「なんでもないよ」

 笑ったり、怒ったり、泣いたり、飛んで喜んだり、本当に忙しい奴だ。

「河村さんっ、せっかくだから皆で写真撮りましょう。ほらっ、こっちに来て下さい」

 そんな彼女のせいで、俺の日常はこうして今日も騒がしいんだ。

 だから、きっと、今撮れた写真には、想像よりも遥かに楽しそうにしている自分が映っているに違いない。



*** END

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シュガーアンドスパイス 山口ユリカ @yuyu01

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