不覚にも誕生日を忘れてた 2

あ、そうそう。


咲希子には、私が『雪ちゃん』と呼んでる事も、一緒に住んでる事も、バレている。


咄嗟に、『雪ちゃん』と言った時には大爆笑され、『一緒に住んでる』と報告した時には目が飛び出るんじゃないか?と思うぐらい驚かれ、そうなった経緯を話したら、今度は目が吊り上がる位怒ってくれた。


警察に一緒に行こう!と荒ぶる咲希子をその場は何とかなだめたけど、次に何かあったら有無を言わさず警察に相談する!と言う事を約束させられた。


(いいヤツだよね)


……なんだけど、今回は相談する相手を間違ったか。


咲希子が、「んー……」と首を傾げて悩む。


「んじゃあ、無難に手料理?アンタ料理得意なんだし。んで、プレゼントでも渡せば?」


さっき「プレゼントはワ・タ・シ♡」とか言っていたヤツにしては、まあまあベターな発想。


「でも……それって普通じゃない?」


「だから『無難に』って言ったじゃない」


私は胸の辺りで腕を組み、咲希子は顎を手で擦りながら悩む。


「やっぱ、無難に料理にするかぁ……」


いくら考えても、良い案が浮かばない。


「津田部長ともなると、ウチらの高級が普通っぽいもんね」


「それはね、そうなのよ……」


咲希子の言っている事はあながち間違っていなくて、私は大きく頷いた。


雪ちゃんと生活してみて分かった事。


かなりのマイペース。はもう分かっている。


あともう一つ。私にはこちらの方が厄介で、『生活水準が高い』と言う事だった。


今住んでいるマンションにしても連れて行ってくれる所にしても、私達が日常としている物よりワンランク…いや、それ以上に上だった。


だから、私にとっては高いレストランもプレゼントも、雪ちゃんにとってはそれが日常な気がして、どうしたものか……と悩んでいた。


「要は気持ちが大事って事なんじゃないの?恋人が自分の為に何かしてくれたって事でしょ」


「そう、かな?」


「そうだよ」


頷いている咲希子に、たまーにいい事言うな。と感心する。


……恋人、って所を省いては。


「そうだよね……。うん。じゃあそうしようかな!」


妙に納得が行って、スッキリする。


「よしっ!何か豪勢な手料理を作るぞ!」


と意気込んでいると、


「まあ、頑張んな。……色んな事を」


肩にポンッと手を置かれ、咲希子がニヤッと笑う。


ったく。コイツの頭の中は、それしかないのか?


でも、考えが纏まったし相談して良かったな。


「サンキュー、咲希子」


「んー」


咲希子が淹れ直したお茶をすすりながら頷く。


(あとは、雪ちゃんの好きな物を用意して……)


そう思って、ハタと気が付く。


そう言えば、改めて考えると雪ちゃんの好きな物がなんなのか分からない。


(いつも私が勝手に用意した物をニコニコ食べてくれているもんね)


誰か知っている人は――。


「あ……」


ポンッと一人、頭に浮かんだ。


(ハナちゃんだ。ハナちゃんに聞いてみよう)


本人に聞けば話は早いんだけど、なんとなくサプライズ的な感じにしたかった。


(夜に電話して聞いてみよう!)


サプライズを演出するなんて初めてだから、楽しくなって来た。


考えると、ワクワクしかしない。


よしっ!と、今までの仕事の遅れを取り戻そうと息巻いた。


その後の仕事は、はかどってしょうがなかった。

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