不覚にも誕生日を忘れてた 1

「う~ん……どうしよう……」


ハナちゃんからスコーンの作り方を教えてもらってから数日。


私は悩んでいた。


別に、「どうしたの?何か悩み?」と声をかけて欲しくてあからさまに悩んでいる訳じゃない。


でも多分、周りの人達は「コイツ『どうしたの?』と声をかけて貰えるのを待ってやがる」と思っているに違いない。


それ位、私は悩んでいた。


「どったの??」


そこに、声をかけてくれる勇者が現れた。


同僚、『咲希子』である。


「ありがとう。勇者よ……」


「は??」


「あ…ごめんごめん、なんでもない」


私は、コホンと咳払いをし、勇者に相談してみる事にした。


「もうすぐ雪ちゃんの誕生日だなぁ、って……」


「ああ、そうだったね。えっと……あ、丁度土曜日じゃない。休みだし、なんかすんの?」


咲希子がカレンダーを指さした。


「……それを悩んでる」


そうなのだ。


今週の土曜日は、雪ちゃんの35回目のバースデー。


『社内人気ダントツNo.1』


である雪ちゃんのバースデーを、社内の人間(特に女子社員)で、知らない人はいない。


もちろん、私も咲希子も、例に漏れず。


ただ色んな事があり過ぎて、もうバースデーが間近に迫っていた事に気が付かなかったのだ。


たまたま女子社員達が話しているのを聞いて「しまった!」と気が付いた。


ちなみに、その女子社員達は雪ちゃんの部署の子達で、近日中に代表者が誕生日プレゼントを買いに行く予定だ、と話をしていた。


彼女(私)がいるからどうする、と悩んでもいたみたいだけど、個人的に渡すんじゃないんだから良いのでは?と言う結論に至ったらしい。


……まあ、正確には彼女でもなんでもないんだけども。


あ。自分で言って、落ち込む。


(今はどうでもいいか……)


どうしたものか頭を抱え悩んでいると、


「『プレゼントは、ワ・タ・シ♡』とかで良いんじゃないの?一緒に住んでる癖に『まだ』なんだし」


咲希子が言った。


「はぁ……」


私の口から、でっかい溜め息が出た。


咲希子が煎餅をボリボリ食べながらお茶をすする。


「なによ。言っとくけど、冗談じゃないわよ」


冗談じゃないのかよっ!


私は再度、頭を抱える。


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