サプライズだからヒミツ 1

「でね、そいつが……」


夕飯を食べながら、雪ちゃんとおしゃべりを楽しんでいる。


今日のメニューは、ソラマメとアスパラガスのペペロンチーノと鯛のカルパッチョ。


横に白ワインもあるけど、こないだの泥酔が効いたのか雪ちゃんはグラスに2杯で留めている。


私もその方が安心だ。


泥酔する度にあんな事になるのでは、こちらの身が持たない。


しかも、覚えていないと言う質の悪さ。


「あ~、美味しかった!ごちそう様でした!」


雪ちゃんがポンッと手を合わせ、お辞儀をする。


「はい。完食、ありがとうございます」


それに合わせて、私もお辞儀。


食べ終わった後、毎回このやり取りをする。


「さて!早く片付けないと、ドラマが始まっちゃうわね!」


雪ちゃんが声を弾ませながらいそいそと食器を片付け始める。


「あ、ホントだ」


21時まで、あと30分を切っていた。


「激ハマり中だね。あのドラマ、そんなに面白い?」


「え!?江奈、面白くないの!?あんなにキュンキュンするのに!?」


目をまん丸にして雪ちゃんが驚く。


「え?う、う~ん……」


会社の女の子達も「あのドラマにハマってる」とみんなが言っているけど、私は余り好きになれなかった。


別に、出ている俳優さんが嫌い、とかではない。


ただ単にストーリーが好きじゃなかった。


王道のラブストーリーなんだけど、惹かれ合っている二人の邪魔をする主人公のライバル(女)に感情移入し過ぎて、見ていられないのだ。


叶わない恋なのに、相手を想う気持ちを捨て切れないそのライバルと自分を重ねてしまって、胸が苦しくなる。


「私は時代劇とか、お笑いの方が好きだな」


私も雪ちゃんに続いて食器を流しに運び、洗い始める。


「江奈……アンタ枯れてるわね」


「し、失礼なっ!」


私だって、そんな内容じゃなかったら普通に恋愛ドラマ好きだし!


「あ、そう言えばあの俳優って――」


言いかけた時、ピリピリピリッ!と私の携帯が鳴った。


「あ……」


水道を止め、パタパタと携帯へ走って行く。


ディスプレイを見ると、『ハナちゃん』と出ていた。


私は慌ててメッセージを開く。



―「《今日、22時位に電話してもいいかしら?》


『はい。大丈夫です』ー既読ー


《その時に詳しく教えてあげるわ♡》


『宜しくお願いします(*^^*)』ー既読ー 」―



その後の返信は無かった。


多分、了承した、と言う事だと思う。


22時か。色々聞いてみよう。


ふふっと笑いながら振り返ると、直ぐ後ろに雪ちゃんが立っていて、ビックリして飛び跳ねた。


「わっ!ビックリした!何!?」


「……誰?」


「え?」


なんか、怒ってる。


「……男?」


「は?ち、違うよ!ハナちゃんだよ!」


「ハナ……?」


「う、うん」


「ふーん……」


唇を尖らせ、またいつもの不機嫌。


なぜ、そんなにハナちゃんと仲良くするのが気に食わないんだろう。


ハナちゃんに限らず、会社で誰かと話をしていてそこをたまたま見られた日には、


『あの子、イケメンだものね』


なんて、見事に拗ねるから始末に負えない。


(もしかして、ヤキモチ……?)


いや、まさかね。


(でも、考えてみると女子と話してるとそんな事ないんだよね)


あれ?それって……。


(いやいや……)


なんて事をやっていたら、雪ちゃんが不機嫌のままリビングを出て行こうとする。


「あれ?雪ちゃん、どこ行くの?ドラマ、もうすぐ始まるよ?」


「……今日はいいわ」


「え、いいって…あっ……」


雪ちゃんはそのまま自分の部屋に入って行ってしまった。


「……変なの」


私は、一応録画しておいてあげようと思い、予約待機に設定して自分も自室に戻った。


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