ドキドキ初デート 5

「いらっしゃいませーっ!」


と、元気な声が店内に響いた。


「こちらへどうぞ」


店員さんに案内された席は、海が見える窓際。太陽に照らされた水面がキラキラしていて、少し眩しい。


でも、とても綺麗で清々しい気分になる。


「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます!本日のメニューは、『金目鯛のアクアパッツァ』と『サーモンの香草焼き』の二種類になっております。いかが致しますか?」


うぉうっ!どっちも美味しそうじゃない!


うーん。どうしよう……。


悩む私を見かねて、雪ちゃんが「一つずつ頂けます?」と両方を注文してくれた。


「かしこまりました。只今お作りいたします」


ペコッとお辞儀をして店員さんが厨房へ戻る。


「すみません。私、いつもなかなか決められなくて……」


「構わないわよ。シェアして食べましょ」


「はいっ」


嬉しいな、嬉しいな。


お水を一口飲んで雪ちゃんを見る。


煌く水面を、眩し気に目を細めて見ていた。


「……綺麗ですね」


「ええ……」


それだけ言って、また二人で海を眺めた。


お客さんの声やBGMが、心地好く頭の中に響き渡る。


波に身を任せ、ゆらゆら揺れている様な感覚。


しばらくボーッとその感覚に浸っていると、


「あれから……」


「はい?」


「あれから、笹木は会社を休んでいるみたいよ」


と言う雪ちゃんの言葉で、現実に引き戻された。


「そう、なんですか……」


「まあ、無理もないわね。皆がいる前であんな騒ぎ起こして、平気な顔で出社は出来ないわよ」


確かに、そうかもしれない。


私だって、次の日の朝はどんだけ憂鬱だったか。


突然、フフッと雪ちゃんが笑い出した。


「どうしたんですか?」


「いえね、次の日の朝は大変だったな、って。思い出したらおかしくなっちゃって」


「笑い事じゃありませんよ……」


雪ちゃんの言う通り、あの時は大変だった。


出社するや否や女子社員からの質問攻め。


「いつから付き合ってるんだ」


とか、


「どっちから告白したの」


とか、


「もうアッチの方は済んでるの?」


とか、下世話な事まで。


廊下を歩けばヒソヒソ話が聞こえるし、


『難攻不落の津田部長を落とした魔性の女』


『二人の男を手玉に取る魔性の女』


なんてレッテル貼られるし……。


どっちにも「魔性の女」が付いて胸くそ悪いったら。


もうもう、とにかくある事ない事ウワサが一人歩きして、全然収拾が付いていない。


「アタシ達、手玉に取られちゃったのね」


当然そのウワサは雪ちゃんの耳にも届いている様で、からかい混じりにイジられる。


「違いますってば!ホント、止めて下さいよ……」


私は本当にイヤで、涙目になりながら抗議する。


「ごめん、ごめん。でも、会社でそのウワサを聞いた時、笑い堪えるの必死だったわよ」


今の雪ちゃんも、必死に笑いを堪えている。


「他人事だと思って……」


ぶぅ、と頬を膨らませると、


「ホラホラ、可愛い顔が台無しよ」


頬をツンッと突つかれた。


「お待たせいたしました!」


突つかれた頬をさすっていると、元気な店員さんが料理を運んで来た。


「金目鯛のお客さまは……」


「ああ、両方真ん中に置いて頂戴。あと、取り皿頂けるかしら?」


「かしこまりました」


雪ちゃんがテキパキと指示を出し、料理が並べられる。

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