ドキドキ初デート 6

「わぁっ!美味しそうーっ!」


金目鯛が丸々一匹入っているアクアパッツァ。アサリやトマトなどが一緒に煮込まれており、爽やかだけど濃厚な香りが漂う。


サーモンの香草焼きも、美味しそう。分厚く切られたサーモンの切り身に、香草が混ぜ込まれたパン粉が乗っていて、良い焼き色が付いている。


「取り皿になります。ごゆっくりどうぞ」


店員さんが持って来てくれた取り皿に、雪ちゃんが料理を取り分けてくれた。


ありがとうございます、と言ってお皿を受け取る。


「では、いただきます」


「いただきます!」


まずは金目鯛を一口。


ふわふわホロホロな身が、舌の上でとろけた。


「お、美味しい……!」


もちろんスープも絶品で、金目鯛・トマト・アサリから良い出汁が出ている。


「こっちも美味しいわよ」


雪ちゃんが取り分けてくれたサーモンを、ありがとうございます!と受け取った。


サーモンをぱくり。


「ん~♡サーモン肉厚!ハーブも良い香りで相性抜群ですね!」


ふんわりと鼻から抜けるハーブの香りの余韻を味わう。


「ホント、美味しそうに食べるわね。……あぁ、ホラ、口元に付いてるわよ」


「え?ひゃっ!」


スッと雪ちゃんの手が私の方へと伸びて来て、口元に付いたパン粉を取ってくれた。


「あ、あり、がとうござ、います……」


「焦らずお食べなさいな」


フッと笑い、私の口元に付いていたパン粉をパクッと食べた。


「っ……!!」


な、なんて事をっ!


私は口をパクパクさせる。


顔が熱いから、多分顔は真っ赤になっているだろう。


雪ちゃんは、そんな私なんてお構い無しに、フンフン♪と鼻歌を歌いながら

アサリの身を殻から外してパクパク食べている。


「どうしたの?」


フリーズした私を不思議そうに見て言った。


「……いえ、なんでもありません……」


本当はなんでもなくない。


心臓がバクバクして、手が震える。


(どうしたの?じゃないよ!なんなんだよ、も~~っ!)


その後の料理は、余り味がしなかった。



*****



「今日は本当にありがとうございました」


運転席の窓から顔を出している雪ちゃんに挨拶をした。


「どういたしまして。楽しかったわね」


「はい……」


私はイルカのぬいぐるみをギュッと抱き締める。


なんだろう。


雪ちゃんと離れたくないな。


「……じゃあ、また明日会社でね」


「はい……おやすみなさい」


「おやすみ」


ウィーンと窓が閉まり、手を振って雪ちゃんは行ってしまった。


私は車が見えなくなるまでその場に立ちつくす。


「はぁ……急に寂しい……」


抱き締めたイルカに顔を埋める。


「…………よしっ!」


お風呂に入ってさっさと寝てしまおう!


まだ21時を過ぎた位だけど、夕飯ももう食べたし、早く明日になったら良い。


「一緒に寝ようね」


イルカに声を掛け、部屋ヘ戻ろうと階段を登った。



――キラッ!



不意に、下の電柱の辺りで何かが光った。


「……?」


覗いてみるけど、何もない。


「ミラーが反射したかな?まあ、良いや。早くお風呂入ろう……」


パタン……と玄関を閉じ、鍵を閉めた。


その時は気にも留めなかった。


でもこれが、この後に起こる重大な事件の幕開けだったなんて、思ってもみなかった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る