ハナちゃんの温かさの秘訣 3

「そんな時の雪ちゃんじゃない!」


ガタンッ!と、拳を突き上げながら勢いよくハナちゃんが立ち上がった。


「江奈っち!仕事の時以外は雪ちゃんから離れない様にしなさいね!この人こう見えて空手の有段者だから、いざと言う時役に立つわ!」


ビシィッ!と津田部長を指差す。


「え……?」


か、空手の有段者……?


「そう、だったんですか?」


「……まあ、都大会で優勝した事はあるわね」


「……………」


初めて聞いた情報に、私は口をポカーンと開け唖然とする。


え、待って。都大会優勝って――。


「激強じゃないですか!!」


衝撃の事実に、今度は私が勢いよく立ち上がる。


「そうよ江奈っち!だから、いざと言う時の盾に使うのよ!」


「うん、さすがにそれは酷い!」


ハナちゃんの言葉に、私は咄嗟に突っ込みを入れた。


私達のやり取りを何も言わずに見ていた津田部長が、「ぶはっ!」と声を上げて笑い出した。


「あははははっ!なに、バカみたいな掛け合いしてんのよ。はははっ……!」


私とハナちゃんは顔を見合わす。


それを見て、私達もつられて笑った。


「……はぁ。なんだか大笑いしたらお腹空いちゃったわ。ハナ、お店閉めた所悪いけど、何か作ってくれない?」


津田部長が、笑い過ぎて出た涙を拭きながらハナちゃんに尋ねると、ハナちゃんの目が輝く。


「もっちろん!今日のディナーのメニューは『チキンのトマト煮込み』だけど、江奈っちはお好きかしら?」


「はい!大好きです!」


「良かった!じゃ、用意するから待っててね♡あ、ちゃんとデザートもあるわよん♡」


ハナちゃんが、ルンルンとスキップをしながらキッチンへ。


それをなんとなく目で追っていたら、


「食べたら送って行くわ」


と津田部長が言ってくれた。


「え?でも……」


私の家と津田部長の家はまるっきりの逆方向。


嬉しいけど、流石にそこまで迷惑をかけられない。


そう断ろうとしたら、


「構わないわよ。別に家に帰ってもやること無いし、その方が安全だし。それに、一人で帰したなんてハナにバレたら殺されかねないわ」


と、肩をすくめながら言った。


……正直、今一人になるのは、少し怖い。し、津田部長ともう少し一緒にいたかった。


なので、厚意は素直に受け取る事にした。


「……ありがとうございます」


「どういたしまして」


ハナちゃんの料理が到着するまで、黙って待つ。


心地好い時間が、二人の間に流れる。……そう思っていたのは私だけかもしれないのだけど。


「……今度の休日、デートしましょうか」


突然、なんの脈略もなく津田部長がそんな事を言い出した。


「……はい?」


ので、当然の様に私の頭はパニック。


「あ、あの……」


「用事があるなら構わないんだけど、気晴らしにでも、と思って、ね……」


「あ、いえ、用事はないです、けど……」


デートって響に少しビックリしたけど、そこまで私の事を考えてくれてるって分かった事が、何よりも嬉しい。


「はい。デート、行きたいです」


そう返事をすると、「じゃあ決まりね」と津田部長が笑った。


えへへ、と、私も笑う。


(デートか……楽しみだな)


「はいはーい!お待たせお待たせ♡モリモリ食べてねん♡」


丁度のタイミングで、ハナちゃんが料理を運んで来てくれる。


コトンと、目の前に置かれたチキンのトマト煮込み。


柔らかくジューシーに煮込まれたチキンはとても美味しくて、私はより一層幸せな気分に浸れたのだった。

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