ハナちゃんの温かさの秘訣 2

「落ち着いた?」


「……はい」


私は鼻をすすりながら頷いた。


「そう。それなら良かった」


それを聞いて、津田部長が微笑む。


その笑顔が優しくて、私はきゅんとしてしまった。


「ちぃーっとも良くないわよ!!」


ハナちゃんが、ほっぺたを膨らませながらズイッ!と私達の間に割って入って来る。


「何が?」


「何が、じゃなくて!なんで江奈っちが号泣するのよ!お店に入って来た時だって顔真っ青にして!それに、江奈っちと仲良くなった経緯だって教えてくれないし!」


鼻息荒く捲し立てるハナちゃんに、冷静に対応する津田部長。


多分、慣れているんだろうな。


でも確かに、いきなり号泣したら誰だってビックリするし気になるよね。


「だから、色々事情があるんだってば」


「その事情を教えなさいって言ってるんじゃない!」


「プライバシー保護よ」


「なっ……!」


ハナちゃんが、ワナワナと身体を震わす。


「あのっ!」


このままだと喧嘩に発展しそうだったので、慌てて止めに入った。


「ハナちゃん、落ち着いて下さい。ちゃんと順を追って説明しますから!」


興奮しているハナちゃんをなだめる。


津田部長に目配せをすると、フンッとそっぽを向いてしまった。


私は、今起きた事、これまでの事を全部話した。



*****



「そうだったの……」


心地好い音量でjazzが流れている店内には、私達三人だけ。


ハナちゃんが「込み入った話になるなら」と、お店を早目に閉めてくれたのだ。


「そりゃ、怖かったでしょうね……」


ハナちゃんが、ポンポンと頭を撫でてくれた。


私は小さく頷く。


「津田部長が助けてくれなければ、どうなっていたか……」


テーブルに置いた手をギュッと握る。


その手をハナちゃんが優しく包み込んでくれた。


「本当、良かったわ」


「ハナちゃん……」


ハナちゃんは、うんうんと頷いている。


優しい笑顔に、また涙が流れそうになった。


「まだ安心は出来ないわよ」


私達が涙ぐみながら見つめ合っている横で、津田部長が水を差す様な恐ろしい事を口にする。


「……え?」


「笹木があれで諦めたとは思えないって言ってんのよ」


「そんな……」


私は愕然とする。


……でも言われてみたらその通りかもしれない。


津田部長が助けてくれる前から私は笹木を拒み続けている。それが津田部長が現れたからって、簡単に諦めてくれるだろうか。


そう言えば、笹木が会社から出て行く前に「江奈さん、またね」と言っていた気がする。


あの不気味な笑顔を思い出して、私の背筋が凍った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る