ハナちゃんの温かさの秘訣 1
お店の前に着くと、お昼とはまた違う雰囲気を醸し出していた。
入り口前には昼間は無かったレトロなランタンがぶら下がっていて、オレンジ色の暖かみのある灯りが周りを照らしていた。
扉を開けた時の、カラン――と心地好い鈴の音の後に「いらっしゃいませ♡」と言うハナちゃんの声が聞こえて来る。
お店の中には、何人かお客さんがいた。
私達の姿を確認すると、パァァァッ!とハナちゃんの表情が明るくなる。
「雪ちゃん、江奈っちいらっしゃーい♡」
そのままの表情で、ニコニコしながら私達の方へと駆け寄って来た。
「待ってたのよ~♡……って、あら?江奈っち、顔色が真っ青じゃない!どうしたの!?」
ハナちゃんが、ガシッと私の頬を両手で挟み、心配そうな顔を近付ける。
「うぇ?」
「ほっぺも冷たい!体も冷えてるじゃないの!」
(え?そんなに……?)
なんとなく津田部長に目線をやると、小さく頷いた。
「ハナ。温かいスープお願い」
「分かったわ。さ、入って入って!」
パタパタとハナちゃんがキッチンへと戻って行く。
お昼と同じ様に、津田部長がネクタイを緩めながら同じ席に着いた。
私も同じに、向かい側の席へ座る。
「はいはいはい!ハナちゃん特製・有機野菜のポトフ!温まるわよ!」
席に着くと同時位にハナちゃんがスープを運んで来てくれた。
ハナちゃんの素早い対応にちょっと驚いていると、フワッとコンソメの優しい香りに鼻をくすぐられた。
「……わぁ、美味しそう」
「ささっ、早く食べて食べて」
私は頷き、「いただきます」と言ってからスープを一口、口に含んだ。
味はとても素朴なコンソメ味。野菜の色々な出汁が溶け合って、角の無い、とてもまろやかな味になっている。ゴロゴロと入った野菜は、スプーンで解れる程柔らかく煮込んであって、コンソメを吸って甘味が際立っていた。
じんわりと、温かさが体全体に広がって行く、優しい味。
「美味しい……」
「でっしょー♡アタシの愛情もたっぷり煮込まれてるからね♡」
「そっか……」
だからハナちゃんの料理は美味しいんだ。
じわぁっ…と、視界が滲む。
「江奈っち!どうしたの!?」
「え……?」
訳が分からず顔を上げると、津田部長がハンカチを差し出してくれた。
ハナちゃんは私を見て、オロオロとしている。
「?」
「……涙。拭きなさい」
「え?」
頬に手を当てると、濡れていた。
(あれ?なんで涙?)
そう思った瞬間、決壊の切れたダムの様に、どわっ!と涙が流れた。
吹き出した、に近いかもしれない。
「江奈っち!」
「……ハナ、静かにして頂戴」
「だ、だって……!」
「とにかく、拭きなさい」
津田部長が再度ハンカチを差し出して来る。
私は「ありがとうござます」と言って受け取り、涙を拭いた。
涙を拭きながら、津田部長のハンカチ良い香りだな、なんて思った。
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