ストーカー笹木の強行 4

笹木が見えなくなると、私の緊張の糸がプツリと切れ、膝からカクッと崩れ落ちた。


「おっ…と、大丈夫?」


寸での所で、津田部長が私をキャッチしてくれる。


「はい。ありがとうございます……」


津田部長の腕を支えに、立ち上がる。


若干、足が震えはするが、立てない位ではなかった。


「じゃあ、帰ろうか。君達も、見世物じゃないんだから早く帰りなさい」


ロビーに集まっていた野次馬達にそう言って、私達は会社を後にする。


多分、明日はこの話題で社内は持ちきりだろう。


入社以来、こんなに憂鬱になったのは初めてだと思う。手が滑って社長にお茶をぶちまけた時でさえ、こんなに憂鬱にならなかった。


それはそれで駄目な気もするけど……。


そろそろ夏になろうか、と爽やかな風が、私の強張っていた頬を優しく撫でた。


隣を歩く津田部長を横目で見る。


厄介な事に巻き込んでしまった事を、今になって激しく後悔。


でも、津田部長が止めに入ってくれなければ、私はあのまま笹木に連れて行かれただろう。


思い出して、ゾッとする。


無意識に、津田部長の服をギュッと握り締めた。


「……ちょっと寄って行かない?」


そう言われて、握り締めた服をパッと離す。


津田部長がハナちゃんのお店の方向を指差していた。


「あ、はい……」


私はこのまま一人になりたくなくて、二つ返事で頷く。


「じゃあ、行きましょうか」


「はい」


二人、お昼に通った道をてくてく歩く。


「別に掴んでても良いわよ」


「え?」


「服」


「あ……」


さっきまで掴んでいた服を指差された。


「でも……」


「シワになったらアイロン掛ければ良いんだから」


「……ありがとうございます」


優しく微笑む津田部長に泣きそうになりながら、私は嬉しくて、またギュッと握り締めた。


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