ストーカー笹木の強行 3


時刻は17時26分。


窓の外を眺めると、サラリーマンやOL、学生達が帰路についている。


友達と帰る人。


カップルで帰る人。


一人で帰る人。


色々な人達がいる。


「みんな、楽しそう……」


そんな風景をボーッと眺めていたら、急に肩を掴まれ、私は「わぁ!」と小さく叫んだ。


お昼にもこんな事があったな、と思い、


「だから津田部長、急に……」


と言いながら振り向いた先には、津田部長ではなく――。


笹木が立っていた。


「……っ!」


突然の笹木の登場に一瞬声が詰まり、私は口をパクパクさせる。


そんな私を見て笹木は、ニャァ……と気味の悪い笑顔を浮かべた。


「……イヤだなぁ、江奈さん。津田部長と間違えるなんて。困った人だ」


口元は笑っているけど、目が全く笑っていない。


私はその笑顔に、ゾゾゾッ!と恐怖を感じた。


目線を津田部長へ向ける。


まだ男子社員と話をしている様だった。


「どこ見てるの?ホラ、一緒に帰ろう。待ってたんだよ?」


恐怖でガタガタと震える私の腕を掴み、強引に引っ張る。


「……あっ……!」


足がすくみ、もつれてちゃんと歩けない。


しかし笹木はそんなのお構い無しに、グングン手を引っ張って歩こうとする。


(どうしよう!誰かっ!)


誰かに助けを求めたいけど、恐怖で声が思う様に出ない。


早く!と笹木が強引に私の腕を引き、玄関を出ようとした瞬間、


「おいっ!」


後ろから声がして、笹木の足が止まった。


「何処へ行くつもりだ?」


この声は――。


「……津田部長、お疲れ様です。何処へって、俺は江奈さんと一緒に帰るんですよ?」


振り向くと、凄い形相をした津田部長が立っていた。


しかし笹木はそんな事では怯まず、さっきと同じ気味の悪い笑顔を浮かべている。


津田部長もそれを見て、「こいつは普通じゃない」と思ったのか、眉間にシワを寄せ、目を細める。


「生憎だが、私の方が先約なんでね。その手を離してくれないか」


あくまでも冷静に、でも威圧感を相手に与える様な、低い声。


それを聞いた笹木が、ハンッと鼻で笑った。


「先約?ああ、なんか付き合ってるんでしたっけ?でも、あんなのただの噂でしょう?急に言われたって、そんなの信じる訳ないじゃないですか。ねえ、江奈さん?」


そう言って振り向いた笹木の目はどことなく虚ろで、焦点が合っていない。


コイツ、本当にヤバいかもしれない。


「ね、江奈さん。違うよね?」


私の腕を掴んでいた笹木の手に、力が入る。


「いっ……!」


私は痛さに眉をひそめ、苦悶の表情を見せる。


「離せと言っているだろう!!」


このまま話していても埒が明かないと思ったのか、津田部長が笹木の腕から私の腕を無理矢理引き剥がした。


「「あっ!」」


私と笹木が同時に声を上げる。


私の「あっ!」は、突然の事に対処出来ず、よろめいた為の「あっ!」。


笹木の場合は、津田部長に腕を捻り上げられた為に出た「あっ!」だった。


よろめいた私は、津田部長にグッと支えられ、そのまま背中の方へと促される。


「あっ…ぐぅ……はな…せ……」


津田部長に捻られた腕が痛むのか、今度は笹木が苦悶の表情を浮かべていた。


「私と美園江奈が付き合っていると言う噂は事実だ。お前が付け入る隙なんて、これっぽっちも無い。覚えておけ」


ハッキリとそう断言して、手を離す。


ドサッ!と、笹木は腕を押さえながらその場に膝を付いた。


男らしい津田部長の行動に、私は不覚にもときめいてしまう。


笹木は、捻られた腕を擦りながら津田部長を睨み付けた。しかしそれも一瞬で、元の気味の悪い笑顔に戻る。


「……江奈さん、またね」


そう告げ、笹木は一人、会社を出て行った。




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