ストーカー笹木の強行 2

「……なんて言うか、嵐の様な子ね……」


「……すみません」


私はいたたまれず、頭を下げた。


「別に謝る事じゃないわよ。楽しそうな子じゃない。さ、帰りましょうか」


津田部長が何の迷いもなくスタスタとエレベーターの方へ歩いて行き、下りのボタンを押した。


「え?あの、どこかに用事だったんじゃ……」


「何を言ってるの?アンタを迎えに来たに決まってるじゃない。その他にこのフロアに用事なんて無いわよ」


「そ、そうなんですか?」


てっきり、何か用事があってこのフロアにいたんだとばかり思っていたけど、私を迎えに来てくれた……?


(ど、どうしよう。めっちゃ嬉しい)


切羽詰まっている状況で不謹慎かもだけど、口角が上がりニヤけが止まらない。


「それに、あの子にも頼まれちゃったしね」


津田部長が、パチンッとウインクをする。


(おぉうっ!)


こんな事言うの失礼かもしれないけど、


(か、可愛い……)


と、私はニヤける顔とドキドキと高鳴る胸を押さえてよろめいた。


「さ、アホな事してないで、エレベーター来たわよ」


急に真顔になった津田部長は先に乗り込み、「開」のボタンを押して待っていてくれる。


高鳴る胸を強引に鎮めて、急いで乗り込んだ。


「ありがとうございます」


「いーえ」


扉が閉まり、目的の一階へとエレベーターが動き出す。


幸いそのエレベーターには誰も乗っていなかった。


チラリと津田部長を見る。


「……あの、津田部長」


「なぁに?」


エレベーターの中ってみんな黙っちゃうけど、ずっと沈黙も耐えられないので、気になっていた事を聞いてみようと思った。


「会社でその言葉使い大丈夫ですか?」


「あぁ、これね。アンタの前でだけだから大丈夫よ」


「そう、なんですか?」


「当たり前じゃない。……でも、アンタの前だと気が緩んで素が出ちゃうから、気を付けないとダメよね」


眉尻を下げて、困った様にはにかんだ。


それを聞いて、私はなんだか嬉しくなった。


『お前だけが特別』


って言われている様で……。


「さっきの……」


「へ?」


その余韻に浸っていた私は、津田部長の声で現実に引き戻される。


「あの子が言ってた事」


「あの子?あぁ、咲希子ですか?」


「あの子、サキコちゃんって言うのね。『安全安心』って言ってたけど、何かあったの?アンタ、随分慌てていたし」


「あ……」


津田部長は全部を知っているから、多分笹木の事を言っているんだと思う。今更隠してもしょうがないし、何かあったらすぐに知らせる。と言う約束を交わしていたので、お昼の事を話した。


話し終えた所で、チンッと目的地へ辿り着いた事を知らせるベルが鳴り、扉が開く。


「そう……そんな事が……」


「はい……」


エレベーターを降り、私達は玄関へ歩き出す。


「津田部長、すみません!」


すると突然、後ろから声がして私達は振り返った。


そこには、書類を持ってゼーゼー言いながら額に汗をかいている男子社員がいた。


津田部長を呼び止めたと言う事は、海外事業部の社員だろう。


「ご帰宅の所すみません!ちょっとここが……」


「どうした?……ああ、これは……」


どうやら書類とPCに保存されている何かの数字が違うらしく、男性社員は慌てふためいている。


津田部長はその男子社員に訂正の仕方を分かりやすくかつ丁寧に説明し出した。


「美園さん、ちょっと……」


「あ、はい。じゃあ、そこで待ってます」


私はロビーの窓際にあるイスを指さした。


「すまない。すぐ終わるから」


「すみません、美園さん!」


津田部長の後に、男性社員が頭を深々とさ下げる。


「いえいえ、気にしないで下さい」


別に急いでないから、としきりに頭を下げる男性社員に伝え、窓際のイスに腰掛けて待つ事にした。

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