偶然知ったヒミツ 5

仕事が出来て、女子社員にも大人気のあの津田部長が、女装……。


チラッと横目で見てみる。


(やっぱり綺麗……)


津田部長は、「イケメン」と言うよりも、「ハンサム」と言った顔立ちをしている。


目元はキリッと鼻筋もスッと通っていて、黒髪のロングストレートヘアーがとてもよく似合っていた。いつもはメガネをかけているけど、今はコンタクトだろうか?背も高く余計な贅肉なんて付いていないから、スラッと伸びた手足は女の私が嫉妬してしまう位綺麗だった。


「美園さん」


「は、はい!!」


津田部長が急に私の方を向いたので、ジロジロ見ていた事がバレたと思い、声が上ずる。


でも、津田部長が言いたい事は、どうやら違った。


「この事は……」


津田部長が目を伏せ、ギュッと手を握りしめている。


(あぁ、そうか)


私の口からこの秘密が漏れてしまうのではないかと、恐れているのだろう。


「誰にも言いません」


私の言葉に、伏せていた目を開ける。


「絶対に、誰にも言いません」


私は真っ直ぐに、津田部長の目を見ながら言った。


ウソは言っていない。誰だって一個や二個くらい、知られたくないヒミツは抱えている。私だっていい大人だ。言って良い事と悪い事の区別ぐらい付く。


「……そう。ありがとう」


その言葉を聞いて津田部長は、安堵の笑みを浮かべる。笑った顔も、やはり綺麗だった。


立っている事に疲れたのか、津田部長は近くにあったブランコに腰を下ろし、キィ…キィ…と漕ぎ始めた。


それを、なんとなく目で追う。


「あの……」


「なぁに?」


「ひとつ、伺っても宜しいでしょうか?」


「ええ」


「津田部長は……その……」


なんて言ったらいいのか言い淀んでいると、津田部長が察した様に言った。


「ゲイよ」


ど直球な言い方に、私は少しドキッとする。


「そう、なんですか……」


別に津田部長に恋愛感情を抱いていた訳ではなかったのだが、少しガッカリした様な、なんとも言えない感情が沸き上がる。


「普通の人には、理解し難いでしょうね。……まあ別に?理解して欲しいなんて、思ってないんだけど」


切なく笑う横顔が、なんだか淋し気で胸が痛くなった。


「あのっ……」


言いかけた時、不意に私の携帯が鳴り、一瞬ビクッと肩が震えた。


(またか……)


こんな時にかかって来るなんて、なんてタイミングが悪いんだろう。もう仕事も終わっているんだから、電源を切っておけば良かった。


「……出ないの?」


携帯を見る素振りも見せない私に、津田部長が首を傾げる。


「はい」


「急ぎの連絡かもしれないわよ?」


「いえ、大丈夫です。急ぎでもなんでもないですから」


見なくても、相手は誰だか分かってる。


今日のイライラの原因は、この着信相手のせいだった。

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