5:魔王城そして帰還 その1

「これが……魔王城……」


 僕はそびえ立つ岩山を見上げた。

 僕の中では20年近く昔に来られなかった場所。この世界ではほんの1年程度のようだ。

 魔族はこの城を拠点として人間界へと侵攻しているという。これは、前回ここに来た時に受けた説明だ。


「拠点の割に抵抗はありませんでしたね」


 未緒が指摘するように、中ボス転じて魔王を倒した後、まったく魔族が襲ってくることもなく、ここまでやってこられた。てっきり城で決戦を挑むのかと思っていたが、城の手前まで来ても待ちかまえている様子はうかがえない。


「誰もっていうか、モンスターもいないみたいね」


 サフィが周囲を見回して言う。恐らく探知の魔法を使ったのだろう。あるいはエルフの能力か。

 正面から入って広い庭を抜け、城の玄関に向かう。


「異国の城は初めて見る。いや、異世界の城か。私が呼び出された城もこんな感じだったのでしょうか」

「未緒も石造りだったけど、もう少し装飾があったなぁ」

「質実剛健。さすが魔族ということか」


 玄関の巨大な扉は開け放たれていた。


「罠と考えるにはあからさますぎます」

「そうだよね。魔族はいそうにないし……」


 僕はそう返しながら広間を見上げながら歩く。

 ここは公式行事で魔王と謁見する際に使われるようだ。

 謁見の間の突き当たりまで進むと、誰もいない玉座に腐りかけた魔族の死体が座っていた。

 その目は信じられないというように見開かれているが、部下の裏切りを見た眼球は腐って溶け落ちていた。


「前魔王のようですね」

「だろうね。僕が倒すはずだった……」


 まあ、無理だったんだけど。でも、召喚者だった中ボスがいなかったら、どうだっただろうか。考えても仕方がないんだけど。


「この城も放棄されたみたいだね。人間の街を占領して引っ越しするつもりだったのかな」

「そうかもしれませんね。勝てると思っていたのでしょう」

「そういえば、魔王は倒したけど、他の魔族はどうしたのかな?」

「ああ、そうか。他のルートで街に向かったのかも」

「街を守る必要があったのでしょうか?」

「それは王国の兵力で頑張ってもらわないとね。僕の仕事は調査と勇者の回収だから、それ以上――」

「もらったぁ! 魔王っ!」


 いきなり頭上から勝ち誇った雄叫びと共に斬撃が襲いかかった。

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