4:魔王・中ボス その2
「……大丈夫」
咳き込みながら二人に手を振る。立ち上がると、背後の岩が音を立てて崩れ落ちる。かなりの衝撃があったのだろう。
魔王は僕を見て面白そうに声を上げる。
「ほう? ちったぁ頑丈になったみたいだな」
「そうだね。あんたがレベルの上がらない相手をいたぶってる間、僕は20年ほど自分を鍛え直してたからね」
「20年だぁ? なにふかしてやがんだ? 頭打ったか?」
「そうだね。そう思うよね」
はあっとため息を吐き出し、これまでの人生を思い返す。
「なんてったって、40年近く生きてるんだけど、高校生以上になったことがないから、精神年齢は永遠の高校生なんだよ。ちょっとくらい頭おかしくても仕方ないだろ!」
「なに言って――げはっ!?」
魔王は僕の同じことを目の前で血反吐を吐いて体をくの字に折った。
「な……なに、やりやがったっ!?」
「同じことをやり返しただけだよ」
そう。急接近して拳を腹に叩き込む。それだけ。いや、飛ばさないように体を地面に固定してやったけどね。おかげで衝撃は何倍にもなってるだろう。僕のように後ろに飛んで衝撃を逃すことが出来なかったわけだから。
「このレベルだと、魔王としてはまだ半人前だよ。僕が倒した魔王はもっと強かった」
「何を……! ま、まさか、てめぇ!?」
魔王は僕の魔法を振りほどくようにして無効化すると、距離を取る。これくらいは出来ないと魔王を名乗る資格なんてない。もっとも、それが出来ても最低ランクの魔王だけど。
「魔王なら片手の指よりたくさん倒したよ。血反吐を吐いて、手足をなくし、魔力を削りながらね!」
「戯れ言をほざきよるわっ! だとすれば、脆弱な人間がなぜ生きていられる!?」
「そりゃ、頑張ったから。理不尽に死ぬなんて許せなかったから」
「頑張りだと!? そんなもので強者に勝てるか!」
「あるんだよ。それを虚仮の一念っていうんだ」
「俺をコケにするかっ!」
「雑魚は死んでいい」
僕は魔王、いや中ボスに向かって拳を突き出した。
「どっ――」
中ボスの左腕は肩からもぎ取れ、血しぶきをまき散らす。その跡にはブシュッブシュッと鮮血を噴き出す間欠泉。
「一気に殺そうと思ったのに逃げるから。今度は動かないでよね」
「き、貴様っー!」
中ボスが残った右腕で襲いかかってきた。大振りで止まったようなスピードだ。魔法や魔術を使うまでもない。顔面に迫ってきた人差し指で拳をチョンと突く。
一瞬、指先が音速を超えて衝撃波が生じる。その波が拳を貫いた。
ドンッと太い音が肉と骨を砕く音をかき消した。
「グハッ!」
中ボスの右腕が肘まで打ち上げ花火のようにパアッと飛び散った。赤一色の花火だ。
ボスがなおも向かってくる。やはりこんな攻撃では効いていないんだ。僕の力はまだまだ足りない。もっと力を込めて叩き込まなければ。
「……レオ」
「……主殿」
誰かが僕を呼んでいる声が聞こえたけど、今は魔王を倒さなければいけない。そうしないと僕がまた殺されてしまう。邪魔はしないで欲しい。
さらに魔力を込めて攻撃を打ち込む。
魔王の声がいつの間にか聞こえなくなっていた。危険だ。手を緩めたら何をしてくるかわからない。さらに力を込めて――
いきなり背中に誰かがぶつかってきた。両手が体と一緒に締めつけられる。
まさか魔王の攻撃か? いつの間に背後に回り込まれたんだ?
ああ、邪魔だ。腕が動かないと魔王を倒せないじゃないか。
振り払おうとすると、力が増した。
(主様よ、もうよい!)
「主殿! もう、死んでいます!」
「レオ! もういいんだ!」
誰かが僕の体を包み込むように抱きしめ、声をかけて来る。おかしい。仲間は全員魔王に殺されたはずだ。これも魔王の策略か?
「レオ、魔王に勝ったよ」
「主殿の勝ちです!」
(主様よ、勝ったのじゃ)
温かい声と温かい肌が僕の心と体を癒してくれる。
「……そう……か……やっと魔王……倒したのか……」
真っ黒に染まった視界が晴れると、目の前にミンチのような塊があった。元の姿など皆目見当がつかないほどに粉砕された肉塊。
「……これは……」
むせ返るような血臭を嗅いだ途端、腹の奥からこみ上げて来たものを地面にぶちまける。
20年近くかかって、ようやく倒せたってのに、気がついたらただの肉塊なんて。おまけに僕の弱い部分が悲鳴を上げている。スッキリしないエンディングだ。
「僕の……未来の姿かもしれないな……」
異世界から召喚され、力に溺れた中ボス……。一歩間違えれば僕も同じになっていたかも知れない。
が、未緒とサフィが左右から色をなして否定する。
「主殿は無法なことなどしません!」
「レオはこいつとは違うよ」
(主様もまだまだじゃのう。あれだけの力を持っていながら振り回されておる。思う存分振るえばよいのじゃ、力など。なんでも思うように出来るぞ? そこの女子どもも)
ノアがからかうようにそそのかす。いや、半分は本気だ。
「そこまで化物になりきれないよ」
「主殿は今のままでよいと思います」
「やっぱりレオは変わってないんだね。よかった」
僕を左右から支えてくれた剣士とエルフに礼を言って離れようとする。そうでないと、さっきノアに言われたせいじゃないけど、左右の腕押しつけられた柔らかな感触によからぬ反応をしそうだったから。
が、足がもつれた。予想外に魔力と体力を酷使したらしい。
「レオ、大丈夫っ!?」
「主殿!?」
二人が左右から抱きとめる。胸の谷間に左右の腕が挟まれてしまい、意識が冴え渡った。血は沸騰するかと思ったけど。
「だっ、大丈夫だから!」
慌てて体を立て直し、二人の支えから自由になる。
(おっぱいは偉大じゃな。妾ももう少し成長した方がよいか? それとも幼女の方が需要があるかの?)
う……。そのままでいいと答えたら幼女好き認定されてしまう。もう少し成長しろというと、おっぱいがいっぱいじゃのうなどとからかわれる。無視だ無視。
(ヘタレじゃのう。がっかりじゃ。闇の宗主にもなれるというのに)
なんか凄いフレーズが出たけど、聞かなかったことにしよう。それよりも、やらなければいけないことがある。元々、仕事のために来たんだから。
「さあ、勇者を探そう」
僕は魔王城に向かって歩き出す。
ふたりの仲間と契約精霊と聖獣と共に、初めて来た時にはたどり着けなかった目的地へ――
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