2:緊急の案件 その2

 医務室に倒れていたのは武南雷人だった。あの無骨な男が蒼白な顔をしている。それもそのはずで、利き腕の肘から先がない。スタッフの医者が治療してるけど思わしくないようだ。


「てめぇ、なんで……死にかけの俺を笑いに来たのか?」

「黙って。こんな傷で死ぬわけないでしょ」


 僕がドンと腕を叩くと、雷人はぎゃんっと悲鳴を上げた。結構、打たれ弱いんだな。これくらいの傷、僕はしょっちゅうだったけど。

 血相変えて僕を止めようとした看護師を僕は片手を上げて制した。


「所長!? これはどういう?」

「彼に任せてみようじゃないか。凄いものを見られるかも知れないぞ」

「初歩の治癒魔法ですよ」


 僕はそう断って雷人の腕に手をかざした。治癒――正確には復元の魔法。骨や組織を元あった状態に戻す。少しグロいのが難点だ。なんせ骨が伸び、筋肉繊維が伸び、血管がヒモのようにもつれ合い、脂肪がその間を埋め、皮膚が浮かび上がってくる。5分もすれば雷人の腕は元に戻った。


「ははっ! これが初歩なら10年かけた研究班の仕事がひっくり返るな」

「……凄ぇ」


 実感がないのか自分の腕を動かして試す雷人。


「もうダメかと思ってたぜ。礼を言う、葛見。いや、葛見の兄貴!」

「あ、兄貴!?」

「命を救ってもらった相手を呼び捨てになんぞ出来ねぇだろ。今日から兄貴と呼ばせてもらうぜ!」


 いきなりの手のひら返しに引いてしまった。これだから体育会系の脳筋は苦手なんだ。


「い、いや、それはいいから何があったか教えて」

「ああ、そうだな。俺が行った時、勇者は契約が済んでたんで、ずっと手こずってる中ボスを倒してやるって、俺が出ていったんだ。で、そいつにやられた。情けねぇが尻尾巻いて逃げたんだ、俺は」

「その敵ってどんなのだった?」

「オーガの中でも特殊な個体だな。全身真っ赤で角の生えた悪魔だな。格好も性格も。いたぶって楽しんでやがる。俺の腕も切り落としたわけじゃねぇ。楽しそうに引きちぎりやがったんだ」


 雷人は痛みを思い出して歯を噛みしめて耐える。


「他になにか特徴はある?」

「そうだな……確か右脇腹に傷跡があったな」


 説明されたその姿はすぐに思い浮かべることが出来た。そして、その傷跡も。同時に全身を震えが走り抜けていった。


「どうしたんだい?」


 サフィが震える僕の腕に手を添えて尋ねる。それでなんとか震えを抑えることが出来た。


「少し3人にしてもらえますか?」


 僕はそう言って、尊巳の用意した部屋に未緒とサフィと共に入った。ソファに沈みこみ、遮蔽の魔術で音が漏れないようにする。


「もう忘れたと思ってたけど、体は覚えてるみたいだ」


 震える手を抑えようとすると、サフィが手を添えてくれた。


「その世界でなにかあったんだね」

「うん……。その世界は……僕が最初に召喚されて殺されたところだ……」


 忘れるはずもない。召喚されて2年間暮らした世界。そして、順調に勇者として成長し、意気揚々と魔王討伐に向かっていったのだ。そして――


「そのオーガは……僕を殺した中ボスだ」

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