2:緊急の案件 その1
「そちらが、異世界の……エルフですか」
《ディヴィジョン》の一室、所長の加津羅尊巳がサフィに遠慮のない視線を注ぎながら言う。ちょっとジロジロ見すぎだ。
呼び出されて、未緒とサフィを連れて飛んできたところだ。
「いや、失礼した。私の行った世界にはエルフがいなかったもので」
さすがに無礼だと気づいたのか、尊巳はサフィに頭を下げる。
「いえ、気にしていません。サフィールリアーナ・アルティアールと申します」
サフィが畏まったしゃべり方をするの初めて聞いた。小さい頃は男の子みたいで薄汚いガキだったのに、変われば変わるもんだなぁ。外見だけじゃなくてね。
「アルティアール王家の長女です」
「……え?」
今なんか、おかしなこと言わなかった? 今度は僕がサフィをまじまじ見る。
「王家ですか。これは驚きました」
「ええー!? サフィ、王女様? あんな――」
「市井に出て民の生活を知ることも重要と考えていますので、庶民と同じ格好で町に出ていたのです」
転生のことは所長にも誰にも言っていないので、幼馴染みという説明は出来ない。僕と知り合う機会なんて皆無に近いはずなのだ。サフィ、ナイスフォロー。
「そこでエルフを捕らえようとしていた者たちに襲われ、イタルに救われたのです」
「なるほど。そのついでに葛見君は王女殿下を掠ってきたわけですね」
「言い方! 巻き込み事故だから!」
断腸の想いでラインを斬ったというのに、なんで責められるんだ?
「事故でしょうが、君の不注意なのは言い逃れようもありません。アンカーの有効範囲はよくわかっているはずです」
「ぐうっ……」
正論すぎてぐうの音も出ないよ。呻いちゃったけど。
「イタルを責めないでください。イタルは責任を取ってくれると約束してくれましたので、きちんと取ってもらおうと思います」
サフィが助け船を出してくれた。ありがたいありがたい。王女となるとありがたみも増すってもんだ。
「葛見君に責任を?」
「はい。お嫁さんにしてもらいます」
「はえっ?」
「なんっ……エルフ嫁だと……どこの中二病患者だ……しかも王女……」
僕はバカのように口を開き、尊巳は歯の間から軋るような声を上げている。もう呪詛一歩手前。
「失礼。葛見君、確認しておくが、意図してやったわけではないのだね?」
「いえ! 違います!」
「エルフの王女様を嫁に……まあ君らしいといえば言えるが……爆発しろリア充……」
「え?」
「いや、気にするな。独り言だ」
爆発しろって言っただろ。まあ、自分でもそう思うよ、サフィを見れば。しかも、その前に未緒と同居してるわけで。
尊巳は大きく咳払いすると、いつもの冷静さを取り戻した。
「まあ、王女様の件についてはなんとかしよう。その代わりと言ってはなんだが」
「仕事します」
「うん。察しがよくて助かる。さっそく面倒そうな案件があってね」
「面倒?」
「例によって召喚された勇者を助けに行ったのだが、派遣したエージェントが失敗して帰還した」
「それは確かに面倒そうだね。そのエージェントさんは?」
「現在治療中なんだよ」
「治療って怪我したの?」
「大怪我だ。治療しても完治するかどうかわからない」
「僕が診てみる。話も聞きたいし」
「診ると言っても――」
「大丈夫」
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