1:穏やかな生活 その3
「ふうん……。じゃあ、これがレオの本当の顔なんだ」
サフィが僕の顔を右から左に回り込んだり、仰ぎ見たり見下ろしたりして観察している。顔が近すぎて緊張する。
「本当というか、レオの時も偽物ってワケじゃないし」
「レオよりボーッとした感じだね」
「……う……そうだね」
確かにレオの顔立ちは目鼻立ちがくっきりしてて悪くない顔だった。今はなんせ目立たないもんね。
「でも、どうでもいいよ」
「へ? いいんだぁ!」と万里子が意外そうな声を上げた。
「だって、中身はレオだもんね。顔なんてしょせんただの入れ物だし」
「……美少女エルフが言うと説得力あるわぁ」
「本当にそうですね」
「サフィは昔からそうだったよね」
「それにしても、苦労したんだね。なのに、ボクったら逃げただの浮気だの酷いこと言っちゃって……ゴメン!」
「至クンって苦労してたんだね。なんかチートでずるいってしか思ってなかったよ!」
「主殿の苦労に比べれば、私など恵まれています」
3人が深刻な顔で僕に頭を下げたり慰めたり。こっちがいたたまれなくなってきた。
「いや、いいから!」
「しかし! それじゃボクの気が済まない! なにか」
「え? えーっと、じゃあ、今日の晩ご飯作ってくれない?」
「ご飯か! 今日と言わず、ずっと作ってあげるよ!」
まあ、そんなことがあって、最初のシーンに繋がるわけだ。
「あるじー、もうお話しおわったー?」
遠慮がちに居間に入ってきたアルジェに、未緒がビクッとする。さすがに人ひとり一口でパックリと噛み殺してしまったフェンリルと知ってしまったのだから仕方がない。
ああ、もう大丈夫だからとフォローしようとしたら、未緒はアルジェに抱きついた。
「ありがとう、アルジェ!」
「あるじのメス、どうしたの?」
「僕のメスじゃないから」
「あるじのうちに住んでるメス、アルジェが守るー」
神獣とは言っても、アルジェはまだ子供だし、動物の縄張り意識みたいな感じなんだろう。まあ、言い方ってものがあるだろうけど。
「未緒は助けてくれて喜んでるんだよ」
「そっかー! また助けるー」
「その時はよろしく頼む」
未緒の中で恐怖と恩義が葛藤してたんだろう。僕だって初めてフェンリルと会った時は足がすくんだもんな。それを思えば、未緒の反応は僕よりも素直で素晴らしい。
「それで、これからどうするかって話なんだけど」
僕がそう切り出した時、スマホが聞き慣れた音を立てた。確認するまでもない。
「呼び出された、《ディヴィジョン》に」
いつもなら何と言うこともないが、タイミング的にあまりいい知らせとは思えなかった。
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