第5話 初めての召喚
1:穏やかな生活 その1
「未緒ちゃん、お鍋に水入れて沸かしてくれる?」
「わかりました。火をつけるのは……こうですね」
「おお、できた!」
「適応してきたね。ボクはまだ……」
「サフィ姉さんはこれからですよー」
「大丈夫です。私も教えますから」
「頼りにしてるからね、ミオ」
「あ、お素麺出してくれますか、万里子さん」
「ほーい」
「ミョウガっていうのはこれ?」
「そうです。こう切って」
「こう?」
「サフィ姉さん、素早い!」
「ナイフの扱いは狩りで覚えたからね」
土曜日の昼下がり、家にきゃらきゃらと楽しげな声が聞こえている。
ああ、なんだろう。家に女の子がいると華やいだ感じになってとてもいい。リア充という連中はこんな空気をいつも吸っているのだろうか。許しがたい。
「あれ? レオじゃなくてイタルはどこ?」
「そこで緩みきった表情でみんなのお尻見てますよー」
冤罪だ。僕は隣の居間で寝転んでるだけで、台所の3人の後ろ姿が目に入っているだけなのに。
それにしても、畳って気持ちがいい。考えてみたら、元の家はフローリングだけで畳なかったもんな。それなのにこうやって転がってると日本人だなって気になるのは遺伝子レベルのなにかなんだろうか。畳恐ろしい子。
「ほらほら、こんなところで男子厨房に立たずなんて顔して寝てないで」
「きりきりまいが『狭いから出て!』って言って追い出したんだよね?」
「そだっけー?」
「そうなんだよ」
「まあ、一家の家長らしくていっか」
「かちょー?」
「こんなに家族が増えたんだから、家長らしく威厳持って、稼いで養わないとだよねー」
「僕が3人も養えるわけないでしょ」
「え? 行き場のない未緒ちゃんとサフィ姉さんだけじゃなくて、わたしも養ってくれるんだー! 言ってみるもんだねー、これで将来は安泰かな?」
「ちょっと待て。なんでそうなるの?」
「だって、3人養ってくれるんでしょ? 《ディヴィジョン》って結構お給料高そうだし」
「まあ、危険手当てがあるからなぁ……じゃなくて! 固定資産税もあるの! ここ高いの!」
そうなのだ。僕が生まれた元の世界では、この場所にあった賃貸マンション暮らしだったのに、なぜか土地付き一軒家暮らしになっているのだ。当然、税金を払う必要がある。世知辛いことなのだ。
「でもさー、至クンってぼっちなのにコミュできるんだねー」
「何年も異世界をたらい回しに飛ばされてんのにコミュ障なんて言ってたら死ぬから。これでも生まれ変わったつもりで頑張ったんだからな」
「おー! えらいえらい!」
万里子に頭をなでられた。
「はい、お素麺できました」
「初めて食べる料理だ。楽しみだよ」
「ほらほら、家長!」
「だから、家長じゃない」
僕は3人と食卓を囲む。
とにかく、3日前の悪夢のような出来事からは考えられない状態に、改めて安堵する。
あれは思い出したくても忘れてしまいたくなるほど酷い出来事だった。
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