5:勇者たちの襲撃 その2

「ごめん。余裕がなくて」


 森の境界辺りで未緒を降ろすと、未緒はその場でへたり込んでしまった。かなり無茶をしたので、さすがに限界だったか。


「大丈夫です……。見苦しいところをお見せして申し訳ございません……」

「ノア、どうだ?」


 森の様子を探りながら、闇の精霊に声をかける。僕の索敵能力よりも範囲は広いし、なにより時間がかからない。今は時間が惜しい。


(エルフの集落はかなり奥じゃな。そこまで行かぬが、500メートルほどのところに人間とエルフがおるな)

「小屋だな。よし行くぞ」

「……はい」

「無理しなくても良いからな」


 健気にも立ち上がると、未緒は自らを鼓舞するように深呼吸を繰り返した。


「いえ、大丈夫です。参りましょう」


 うなずくと、僕は先に立って森の中に入っていく。


「あまり大きな音は立てないように注意して」

「はい。発見されないようにします」

「それもあるけど、この森には――」


 言いかけて言葉を切る。なにか声が聞こえた気がする。


「女性の悲鳴ですね」


 未緒の声に僕は足を速めた。月明かりだけの深夜で、月も覆い被さる枝葉に遮られて届かない。それでも僕の目が地面から突き出した根っこや下生えを見つけて避けられるのはノアの力が大きい。闇の精霊と契約しているおかげで暗視ができるのだ。

 未緒が遅れているが仕方ない。今は時間が惜しかった。あの声がサフィかも知れないと考えるだけで胸がかきむしられる。


 小屋が見えて来たが、足を止めることなくそのまま進む。ぼっちスキルで気配は消せる。音も問題ない。問題になった時は見つけられた時だ。


 丸木を積み上げたログハウス。以前入った時に間取りは確認してある。二部屋だ。奥が休憩室、手前が作業部屋。

 ここまで来たら一気にやる。


(ドアの右奥に2人)


 ノアからの情報を聞き流しながらドアに手のひらを向ける。破壊音を発して、木製のドアが真ん中からへし折れて内部に吹っ飛ぶ。


「サフィ!」


 室内に踏み込みながら右に視線を向けると、まだ幼いエルフを若い男が組み敷いていた。人間にすると中学生くらいか。


「それは案件だろ」


 反応できずにいるうちに僕は男のボサボサの髪を掴み、体を引き起こす。何か叫ぼうとしたので、ドアの外に投げ飛ばす。

 エルフの女の子が無事なのを確認すると、傷跡に治癒魔法をかける。


(奥に3人)


 エルフひとりをふたり前後を犯しているところに突進する。下半身をむき出しにして完全に無防備なふたりがあんぐりと口を開けている。

 マヌケな姿に思わず吹き出しそうになったけど、エルフを一瞥してサフィでないのを確認する。


「何者だ、てめ――」

「うるさいよ」


 ふたりの顔の空間から空気を抜き、エルフ女性に治癒魔法をかける。

 周囲にサフィの姿がない。


(外じゃな。4人おるぞ)


 ノアの言葉に弾かれたように駆け出す。サフィを3人が犯している絵が脳裏に浮かんだ途端、僕の中で何かがキレた。

 小屋の奥にはドアがない。邪魔するなと壁に向かって手のひらを突き出すと、ログハウスの丸太がミシッと派手な音を立てた。さらに力を解き放つと、まるで落雷のような音がして丸太がへし折れた。

 折れた丸太を力任せに押し出して、外に出る。小屋の周りの整地した空間と森の境界辺りに4人の姿があった。

 夜目にもはっきりと見えた。サフィは服を破られ、きわどい姿になっていたが、まだ抵抗し、3人が下半身と胸、頭を押さえている。

 その姿を見た途端、僕の中で完全にタガが外れる音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る