3:自分語りは恥ずかしい その1
「あそこが主殿の生まれた村?」
(どういう意味じゃ、主様よ?)
未緒がオウム返しに尋ねると、ノアが影から飛び出してきてどういうことかと問いただす。まあ、そりゃそうだよな。
「主殿は私と同じ日本で生まれたのではないのですか?」
「うん。それはその通りなんだけど、ここは僕が2番目に来た異世界だ」
「2番目……?」
「《ディヴィジョン》に入る前の話だね」
「では、召喚されて?」
「最初の異世界は召喚されて、契約されて、魔王を倒すために旅に出た。未緒と同じで、よくある話だよ」
「魔王を倒したのですか?」
「いや。2年くらいかけて途中で中ボスに殴り殺された。気がついたら、この世界で赤ん坊だったんだ」
(なんと、転生か!)
「転生……輪廻転生というのは聞いたことありますが、本当にあるのですね」
(しかし、記憶があるのは珍しいのう。さすが主様じゃ)
「その理由はわからないけど、僕はこの世界でレオという少年として生きることになったんだ」
「あ! 魔王レオデスケード!」
「それは恥ずかしいから言わないで……」
魔王レオデスケードはその後、魔族に召喚された時に寝ぼけて名乗ったのだった。完全に世界を股にかける黒歴史だ。辛い……。
(じゃからか。元の世界に戻った途端、主様の姿が変化しおって驚いたぞ。契約者の繋がりがなければわからぬところじゃった)
「ノア殿は闇の精霊でしたね? 精霊は主殿が異世界に召喚されても問題ないのですか?」
(ないぞ? 元々、精霊は精霊界という別の世界に住まう存在じゃ。どの世界でも自在に動けるからのう)
「それでは私たちを――」
(ああ、それは無理じゃ。人間は精霊界には行けぬ。行けるとすれば死んだ後じゃろう)
「そうですか……」
心なしか気落ちした様子で未緒はうつむく。別の世界に行ける手段があれば時間を遡る方法もあるかもしれない。そう思ったんだろう。
「まあ、とにかく、僕は一回契約を果たした時に元の世界に戻されたんだ。すぐ後にまた召喚されて、椚木先生に助けられて、ようやく召喚から逃れられたわけ」
「あの……主殿は何回召喚されたのですか?」
「さあ? 10回以上やられてるよね。3回目からは契約しないように逃げ回ってたから、余計に召喚されるようになって困ったよ」
「つまり、その度にスキルを?」
「そういうこと。でも、この話は内緒だからね。目立つし」
「私は信用していただけるのですか?」
「佐久良さんは大丈夫だと思う。曲がったことが嫌いでしょ?」
「それはそうですが、そんな簡単に信じてよろしいのですか?」
「その時は僕の目が悪かったってことで」
「わかりました。信に報いるために一層精進致します」
「そこまで畏まらなくてもいいから」
こっちが引くくらいの畏まった礼。未緒って中身は武士なんだよなぁ。
「つまり、この村には主殿のご両親がいらっしゃるのですか?」
「それはわからない。時代が同じなのかわからないからね」
しかし、さっきの町の状況に記憶を照らし合わせると、それほど時間がたっているとは思えない。未緒のことと言い、異世界と元の世界の時間の関係は首をひねることだらけだ。
「そういうわけで、僕の故郷がHOWという組織に狙われてるので調査しようと思う」
(主様は素直でないのう。心配なのじゃろう?)
「……まあ、そうです」
(よろしい。力を貸してやろう。その代わりわかっておるな?)
「はい。戻ってからね」
「なにか報酬を上げているのですか?」
「いや、これは佐久良さんは関係ないから!」
(そうじゃ。これは妾と主様の秘め事じゃからな。詮索は野暮というものじゃ。それとも、未緒も欲しいのか?)
「私も……ご褒美は欲しいですが……」
(本人も言うておるのじゃから、一緒にやってもかまわぬぞ?)
「いやいや! 佐久良さんはわかってないから!」
(おかしなヤツじゃのう。これだけの力を持ちながら、女子ひとりにその体たらくとは。主様なら誰が相手でも容易に落とせるじゃろうに)
「そういうのはいいの!」
これ以上、話をされちゃかなわない。
レオは自分でもなかなかイケメンだと思ってたから、少しは自信があった。でも、今はそんな考えは抱けない。サフィや未緒の隣に並ぶなんて拷問だ。
「さあ、仕事だ。ノア、主に村の奥の方を探って。深夜に出歩いてるヤツは警備以外にいないはずだから」
(任せるがよいぞ)
ノアは素直に姿を消した。
「じゃあ、僕らは村に近づいてみるか」
「あの……主殿……」
「ん?」
「私は……イヤではありませんから……」
「え? なに――」
未緒は急に僕に近寄ってくると、顔を寄せてきた。
「主殿なら……その……」
「こんなとこで何してるの?」
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