1:未知の世界 その3
2時間ほどかけてモンスターを部位に分けて、3人が持つアイテムボックスに収納した。僕も持っている異次元収納能力の一種だ。容量は僕の方がずいぶん大きいようだ。というのは、3人がこれ以上入らないと話していたのが聞こえたからだ。
「他の部位は売り物にならないんですか?」
「いや、肉は部位によっては旨いし、皮は武具に使えるんだけど、これ以上はアイテムボックスに入らないからな」
「じゃあ、僕が運びます」
「どうやって?」
僕は空間を斬ってそこにモンスターを吸い込ませた。
「なっ!? 何をしたんですか!?」
魔法士が目を激しく瞬かせて目の前を二度見した。
「空間収納魔法です。アイテムボックスの大きいものと考えればいいかと」
「いやいや! こんな大容量は聞いたことがないって!」
他のふたりも同意の印に首を激しく縦に振る。あ、やっちゃったかな。まだ余裕なんだけど。それ以上に驚いていたのが未緒だった。そりゃそうか。
「えーっと、じゃあ、見なかったことに」
「いや、買い取りの時、出すでしょ?」
「じゃあ、細切れにして小分けで出しましょう」
「そうだな。他に方法はないかぁ」
冒険者たちがまだ呆けながら同意したことで、僕たちは近くの町に向かって出発した。
「いやー、でも、ホント助かったよ」
先頭を歩くリックスが肩越しに声を上げる。
「いつもあんな大物なら大変でしょうね」
「いや、いつもは王都周辺のモンスターを狩ってたんだけど、最近仕事が減って、仕方なく辺境に出てきたんだ。そしたらモンスターも強くて手こずって」
「へえ。じゃあ、王都は平和なんですね」
「そうでもないんだ。依頼は変わらず多いんだよ。ただ、最近新人冒険者が妙に増えて、片っ端から受けていくんで、なかなか俺たちまで回ってこないんだよ」
「新人が急に増えた?」
「近くの町から来たのかもしれないけどさ。おかげで俺たちみたいな中級は他に行くしかない状況なんだ」
「でも、あの新人たちは薬草収集とかはやらないのよね。おかげで中級が仕方なくやってたり」
弓士がこぼす。薬草収集などの小さな仕事は小金は入るが、経験値は入らない。その新人たちはレベルアップを狙っているんだろう。
そんな世間話をしながら、途中休憩を挟んで3時間ほど進むと、陽が落ちる前に町が見えるところまでたどり着いた。
「さあ、シャルートの町だよ」
エルフの紹介を聞いて、僕は自分でも知らない間に足を止めていた。聞き覚えがある名前、それ以上に記憶に引っかかる光景。
町と言っても、それほど高い建物があるわけじゃない。最大で3階建ての木造。町の周囲は腰までの高さの柵で囲ってあるだけだ。ここから見える建物の数から住民の規模は数千人という感じだろうか。
そして、背景にあるノコギリのような特徴的な山の端。
「……ここは……」
あれは何年前だ? 記憶が混乱しているけど、確かに見た覚えがある。
「主殿?」
未緒が僕を振り返って怪訝そうな顔をする。
そうだ、僕はこの町に何度か来たことがあった。さっきの恐竜っぽいモンスターも走竜って言われてたじゃないか。
気がつけば興奮が体を震わせていた。
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