2:考え違いしてました その2
「それじゃ先輩よろしくお願いします!」
というわけで、放課後。河原である。
決闘かよ。
まあ、川と言っても、ひょいっと飛び越せるレベルの川で、その脇にある小さな公園なんだけど。普段はスケボーとかバスケをしてる子供がいるんだが、今は誰もいない。
そういや、勇者クン0号のスキルは確認してなかったな。ま、訓練なら知らない状態の方がおもしろいか。
「よろしくです」
勇者クン0号こと須木山響が礼儀正しく頭を下げる。
「うん」
そう返事をした次の瞬間、勇者クン0号が一直線に跳んできた。
おう、加速かな。それとも縮地かな。
そして、何もないところからむき身の日本刀を取り出して一閃。
異次元ポケット、いや、アイテム収納か。鞘も要らないから便利だね。それに、スキルふたつとはなかなか豪勢だ。
勇者クン0号は僕の下半身と上半身を真っ二つに斬った。いやぁ、いい太刀筋だった。
でもねぇ。これってトレーニングじゃないよねぇ。
「おーい、危ないじゃないか」
勇者クン0号の背後から声をかける。もちろん彼が斬ったのは僕の分身だ。わかりやすく言うと、抜け殻を残して瞬間移動した感じ?
「上手くかわしましたね、先輩」
「僕じゃなかったら斬られてたよ。シャレでもやっちゃダメだよ」
「いいんですよ。シャレじゃないんですから」
舌打ちをしながら勇者クン0号は応じた。
「つまり、真剣に僕を殺そうってこと?」
「はい、そうです」
勇者クン0号は胸を張ってそう答えた。
「理由を訊いてもいいかな?」
「そんなの簡単ですよ。俺の邪魔をしたからです」
「邪魔って言われても、僕は仕事でキミを助けただけなんだけど」
「それが大きなお世話だったんですよ! 異世界で美女を助けて魔物をぶった切る! 殺し放題で感謝されるんですよ? 言い寄ってくる美女ともやり放題ですよ?」
あー、ヤバい人だったのかー。
勘弁してくれよー。
「こんな千載一遇のチャンスを得て、高揚してたのに、あなたはそれを台無しにした! それだけじゃない!」
「まだあるの?」
「姫巫女ですよ! あんな美しくて可憐なお姫様、この世界にはいないでしょ! いたって俺の手には届かない。あのまま魔王を倒して――」
「いや、魔王は僕が倒したから。言ったよね?」
「あああああっ! だったら、中ボスでも四天王でもいいや! そいつらを倒して、お姫様と恋仲になって次期国王!」
「巫女姫は儀式のために男と関係持ったらダメなんだけどね」
「だったら、無理矢理でもいいや! あの娘とやれるんならなんだって!」
あ、ゲスだ。
「しかも! あなたと顔見知りですか? あなたごときが!」
ごとき扱いされたよ。
「銀座のキャバレーのナンバー1ホステスと、平凡な高校生が知り合いみたいな! ありえないでしょ!? おまけに、あなたを見る彼女の目は恋する乙女の目でした!」
「そんなわけないでしょ」
「俺にはわかるんですよ! 何人も堕としてきた俺にはね!」
ゲスすぎる発言に信憑性が感じられない……。
「そのうえ、あんな可愛い妹まで! さらに隣の私立高の女の子が家に出入りしてるだろ!」
「ああ、万里子か。というか、キミはストーカー気質まであるのか?」
「呼び捨て! そのうえ俺をストーカー呼ばわり!」
「事実を淡々と言っただけなのに」
「とにかく! 俺はあんたを許さない!
「でも、僕は《ディヴィジョン》の言うとおりに仕事しただけなんで。文句があるなら《ディヴィジョン》に言ってもらえる?」
「ならば俺は《ディヴィジョン》を許さない!」
おお、体制に反対する俺カッコいい!
でも、これ以上付き合いきれないなぁ。
「じゃあ、そういうことで」
「おいこら、ちょっと待て!」
「え? まだ用事が? 《ディヴィジョン》を倒すんでしょ? 僕関係なくない?」
「大ありだっ! まずおまえを倒す! 食らえーっ!」
勇者クン0号はまた真っ正直に向かって来た。
戦士の戦い方は性格が出るって言うけど、これほどあからさまなのはないなぁ。
高々とジャンプすると、凄い勢いで上段から刀を打ち下ろしてきた。おう、原っぱに一直線にえぐった跡が走ったよ。音速突破した? あの方向に人がいたらどうするんだよ。
おまけに振り切る前に刀を返して跳ね上げてきた。そのままいたら利き腕を肘から斬られてたかな。
さらに3撃目4撃目と攻撃が続く。鋭い太刀筋だな。未緒が本気でやったらどっちが強いかな。
「くそっ! どうして入らないっ!?」
「そりゃ斬られたくなくて逃げてるから」
当たり前の事実だよな。実戦じゃ相手は逃げるし反撃もする。
「なんなんだ!? 聞いてないぞ! 光の剣と障壁しか使えないんじゃないのかよ!?」
「さっき転移使ったけど……」
「転移って瞬間移動か!? 卑怯者が!」
「それより誰から聞いたんだ?」
「言うわけないだろ!」
「武南先輩辺りかな?」
「……くっ」
武南雷人の名前を出すと、勇者クン0号は顔を歪め、あっさり引っかかってくれた。単純すぎるなぁ。
光の剣と障壁はクラス召喚の時に使ったスキルだ。うん、そういうことだな。
「なるほどね。焚きつけられたわけね」
「俺と一緒ですぐに救出されたから力の差はないってウソ言いやがって! どう考えたって違うだろ、こんなの!」
「ああ、ウソというか、知らないからね、武南先輩」
「なに?」
「って言うか、誰も知らないよ。言ってないし、言っても信じないしね」
これ以上、勇者クン0号の相手をしても疲れるだけで益はなさそうだ。
「はい、終わりね」
背後に転移すると、ポンッと首の後ろに手刀を叩き込む。
「安心しろ。峰打ちだ」
一回言ってみたかったセリフ。あれ? 手刀だから峰がないのか。両刃の剣で峰打ちするよりいいよね。
さて、と。
「そこにいるんでしょ?」
僕は背後の大きなケヤキの幹に声をかけた。
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