6:予想外の後始末
魔王は元のレオデスケード2世であると認め、改めて魔族たちに魔王の指示に従うようにと言いつけた。
これで問題は解決だ。
「ってことで、魔王は倒したし、侵略の意図はないから。後は勝手にやってね」
一応、報告と、勇者クンの契約がきちんと終了しているか確認するため、王城に戻った僕は国王にそう言い放った。
もう誰も無礼だなどと文句を言ってくる人はいない。僕は魔王どころじゃない化物にしか見えないだろうから。
「勇者様もお帰りになるのか?」
「当たり前でしょ。そういう契約なんだから。でも――」
何か期待するように国王が身を乗り出す。
「また召喚しようなんて考えはないよね?」
「ももももちろんでございますぅっ!」
国王は五体投地しそうな勢いで頭を下げた。
「だったらいいけど、もし召喚がバレたら滅ぼすからね、この国」
僕は優しく言うと、ニッコリ微笑んだ。こうやると再犯率が下がるからだ。なんでかわからないけど。
横で見ていた未緒と勇者クンが何か言いたそうな顔をしていた。
「葛見殿は……その……何というか……人でなしですね」
「邪悪な笑みってヤツだな!」
「失敬な勇者たちだなぁ。置いていくよ?」
ふたりに言うと、アンカーを取り出す。
2人ともすでに元の服に着替えている。未緒のビキニアーマー姿がもう見られないのは非常にもったいないのだが、異世界の物を持ち帰るのは規約違反だ。
「申し訳ありません。もう少し衣に包んで言うべきでした」
「小せぇこと言うなよ! 悪い意味じゃねぇって!」
ふたりが謝罪らしからぬ文言で慌てて謝るのを聞きながら、アンカーのロックを解除してスイッチを押し込んだ。
ブンッと視界が揺れて、元の世界に引き上げられる感覚。
アンカーのエネルギーがなくなる2時間前になって、ようやく仕事が終わった。
この仕事を始めて、時間的に一番ヤバい一件だったなぁ。
帰ってきた時には夕暮れ時になっていた。
3人揃って自宅の庭に現れる。周囲にも異常はなし。まあ、結界を張ってるから誰も庭を見ることは出来ないけど。
ふたりを見ると、勇者クンは気を失っている。転移酔いだな。ちょうどいいやと、そのままにしておく。未緒は目を丸くして外の光景を見ていた。
「ここは……」
「僕の家。ふたりはしばらく家で待っててもらえる?」
「ここは、どこですか?」
「ああ、東京のちょっと西だけど?」
「あの摩天楼は……」
「駅前に最近出来た高層マンションだな。田舎にもああいうのが建つようになったんだよね」
「まんしよんとは……震災で倒れた浅草のよりも高いものがあったとは……」
未緒の問いに答えながら、僕はスマホを取り出した。
まずは《ディヴィジョン》に引き取りを依頼しなければいけない。勇者クンこと坂木勇也は記憶消去相当。性格的に《ディヴィジョン》の仕事をやらせるには問題がありそうだ。佐久良未緒は戦闘能力については問題なしだが、適応できるかどうか。判断は向こうに任せるかな。
そんなことを考えながらスマホの操作をしていると、未緒が物珍しそうに覗き込んできた。
「これはなんでしょう?」
「へ? スマホだけど」
「すまほですか。このようなものがあるとは過分にして存じませんでした」
「いつの生まれだよ」
「いつと申されても、葛見殿と変わらぬと思いますが。42年です」
「42って、昭和じゃないよな。1942ってこともないよな」
「しょうわとはなんでしょうか?」
「え?」
真顔の未緒を見つめて嫌な予感がする。いや、違和感はずっとあった。あえて突っ込まなかっただけで。
「佐久良さん、つかぬ事を訊きますが……道場がなくなった震災っていつ?」
「昨年の12年ですが……。大丈夫ですか? お顔の色が優れませんが?」
「大震災って東北だよね?」
「え? 東北でも震災があったのですか!?」
「やっぱり、関東?」
「はい。神田の道場はなくなりまして、中野村の母の実家に身を寄せております」
明治42年生まれ、大正13年の16歳を時代超えて召喚したのかよ!?
思わず誰に抗議すべきかわからずに叫ぶ。
「異世界召喚は無茶すぎるだろ!」
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