5:魔王撃滅 その1
僕の周りを魔族が取り囲んでいた。
ゴブリンのような小さいのから、オークやトロールといったでかいの。翼のあるサキュバスやヴァンパイア。足のないラミア。脚が多いアラクネ。
初めて見た時は卒倒しそうになったけど、今はこの状況でも落ち着いていられる。その代わりにふたりの勇者がかなり限界ギリギリだ。
「それで、なんの用だ、今頃になって?」
僕の脇に立つこいつが将軍。キメラの中でも強力なキングキメラと呼ばれる魔物だ。ライオンの頭、牛の角、クマの体、サソリの尾という脳みそ体育会系。ハイブリッド系の魔族は短気で戦闘的だ。目の前の王座に座る魔王が口を開くより早く僕に詰問するとはいい根性だ。
「魔王様の発言を待たずして、なぜ貴様が問うのだ?」
「魔王様は問いかけにくいかと思ってな。ワシが気を利かせただけだ」
「控えろ、将軍よ!」
「貴様こそ!」
「殺るか、てめえ!」
「ぬっころされたいらしいな!」
外野たちもいい感じにヒートアップしてきた。やっぱり魔族はこうじゃないとね。
「ええい、魔王様がご発言なされるぞ!」
ドンドンと太鼓の音が響くと、騒々しい連中が徐々に静まり、頭を垂れていく。将軍だけはその場に仁王立ちだ。
魔王は僕の方を見て、軽く会釈して見せた。こちらの意図を汲んでくれたようだ。
「それには及ばない」
僕は魔王の前に進み、出来る精一杯に尊大な口調で言い放つ。
「預けた王座を返してもらいに来た」
魔王は当たり前のように頭を垂れて恭しく応じる。
「我が王よ、謹んでお返しいたします」
ここで自分のステータスを確認したが、まだ魔王にはなっていない。やはり周囲の承認が必要なようだ。
「異議はあるか?」
僕は振り返って魔族どもに向かって精一杯声を張り上げた。その声が消えるより早く、野太い声が割って入る。
「異議あり!」
こうでなくっちゃいけない。
近づいてきた将軍の巨体が僕を見下ろす。これだけでも不敬罪だ。
「自分が相応しいとでも言うつもりか?」
「恐れながら、前魔王の魔力はわかっております。ワシの方が今は勝っていることも」
恐れながらと言ったくせに、まったく恐れても敬ってもいない尊大さ。
「僕が去ってから魔力を奪ったか?」
「人間と魔族を1000匹ばかり倒し、吸収しましたからね」
「弱い者ばかりいたぶったの間違いだろう?」
将軍の鼻が広がった。怒りで興奮している様子だ。
「よし。いいだろう。僕と将軍で戦い、認められた方が魔王だ。いいな?」
「おう!」
周囲を取り囲んだ魔族が血に飢えた歓声を上げる。ホント好きだな、こういう体育会系ノリ。
「待っていただきたい、葛見殿!」
おっと乱入だ。
「勇者としてそこの魔王と対決を求めます」
未緒は長剣を魔王に突きつけて挑む。
「勇者だとぉ? てめぇ、勇者と手を組んでワシを討つ魂胆か!」
魔王の勘違い発言に続いて、ブーブーと魔族からブーイングの嵐。
「いや、勇者が試合たいらしいから勝手に相手して。勇者が勝ったら魔王軍解散ね」
「イイだろう! こんなメス瞬殺してくれるわ。覚悟せいっ!」
開始の合図などないまま、将軍が未緒の脳天にヒグマの爪より二回り以上でかい爪を振り降ろした。
反射的な動きでのけ反って、未緒は攻撃をかわした。
「よくかわしたな! だが、どこまで続く!?」
将軍は腕を振り上げて追撃の構え。未緒は長剣で受け流すと、踏み込んで斬りかかる。振り降ろす寸前、反対の腕が来ているのに気づいてとっさに後ろに飛んだ。
「なかなかやるじゃねぇか!」
剣道の試合なら左右から攻撃が来ることはない。よく反応できたなと感心する。最初の頃の僕なら間違いなく斬られてた。もう血みどろだね。
さらに将軍は腕だけ使って未緒と斬り結ぶ。
あ、これは狙ってるなとわかった。キマイラは尻尾がサソリだ。腕だけだと意識させてから尻尾あるいは足で攻撃するパターン。
ちょうど未緒が将軍の攻撃に馴れてきたタイミングで尻尾が足を狙って地面を這うように振られた。
将軍は足を狙っていた。マズい。
しかし、未緒は長剣でガードした。しかも弾いて距離を取る。
剣道じゃない。剣道なら足はポイントにならないから防御しない。でも、実戦じゃ致命的だ。未緒の剣はかなり実戦的らしい。
レベルが低くてもさすが勇者ってところか。でも、さすがにこれ以上は無理だ。なんせ魔法が使えない。将軍も今は使っていないが、それは余裕があるからだ。これ以上続けば当然使うだろう。
言ってる尻から未緒の足元に空気の渦が生まれた。とっさに異変を感じて未緒が飛び退こうとする。しかし、一歩遅かった。足元を風にすくわれ、ひっくり返される。
「死ねやっ!」
雄叫びと共に将軍が未緒に振り下ろした腕を片手で受け止める。僕が突然現れたことに未緒は驚いていた。まあ転移させたんだけどね、僕を。
「バトンタッチね」
未緒に言うと、未緒を周囲の観客席に転移させる。
「佐久良さんはそこに座って見てて」
「え? あ、はい」
状況を把握したワケじゃなさそうだけど、そういうものだと感覚的に理解して、未緒は素直にうなずいた。
「ようやくお出ましか」
「いいウォーミングアップになったでしょ」
爪を出したり引っ込めたりしながら、将軍が僕の周りを回り始めた。
僕は得物を空間収納をまさぐって取り出す。殺すのが目的じゃないから、まあこんなもんかな。
「ふざけてるのか? それでワシの相手が出来るってのか?」
「まあ、充分でしょ、バールのようなもので」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます