2:クラス召喚救出 その2
「ちょっといいですかー」
予想外の僕の登場にクラス委員は武器を一旦止めてしまった。なるほど。洗脳は完全に自由意志を奪うほどじゃないようだ。
それにしても、間近でクラス委員ふたりを見て、ああ、凄い不公平な図だなと感じた。
同じ高校生だというのに、身長差15センチ。長い手足にスラッとした身体。今時のイケメン。副委員長なんか近寄りがたい黒髪長髪美女だし。
もう負けっぱなしである。外観は。
「キミは?」
「転校生と隣のクラスの人だって。初日にこんな目にあうなんてついてないよなって話をしてた」
「ウソだな」
背後からのクラスメイトの助け船を、イケメンはサクッと斬り捨てた。
「クラス委員長の俺が先生から聞いてないなんてことがあるわけない。それに隣のクラスにあんな娘はいない」
委員長としての自分に絶大の自信があるんだろう。それに目敏く女生徒のチェックもしてるらしい。ひかるはなかなか美人だから、元々無理な設定だったよな。
そんな反省をしながら、状況を見る。生徒たちはまだ動いていない。34人と2人をひかると分担して運ぶしかなさそうだった。
「あなたたち、何者なの?」
副委員長が杖を僕に突き出して問い詰めてきた。いつでも魔法を放てるということだろう。美女が凄むと迫力があるわ。
「話をしてはなりません! おおかた人間に化けた魔族だろう! 本性を現すがよい!」
ローブをまとった召喚士の爺さんが杖を突きつけ、なにやら呪文を唱えた。しかし、先んじて短い杖を取り出していたひかるは魔法障壁を展開した。おお、高速詠唱。なかなかの高レベルだ。
飛んできた炎の弾がことごとく弾かれる。
召喚士の驚愕の表情を見て、この世界の魔法のレベルが大体わかった。多少違うが、自分の知る魔法や魔術とあまり変わらないなと安堵した。
とはいえ、これは問題だ。
「まいったな……。救出対象と戦うなんて予定にないんだけど。特別手当の申請の仕方を教えてもらわないとねぇ」
これ見よがしにため息をつくと、ひかるに振り向く。
「後で教えてくれます?」
「今それどころじゃな――」
「ウオォォォォーッ! 魔族め! 死ね!」
怒号を発し、護衛の騎士たちが長剣を構えて向かって来た。
「凍れる水の力を持てこの者たちの歩みを止めよ!」
ひかるが早口の詠唱と同時に小さな杖を騎士たちに向けると、騎士の足元が一瞬にして凍りついた。
「無理に動かない方がいいわよ。足がもげてもいいなら別だけど」
威圧増し気味にひかるが異世界人たちをにらむ。
騎士たちも杖を持った召喚士も動けずに顔を見合わせる。多分、想像以上に威力があったんだろう。
これで収まれば問題ないんだけど、そういうわけには行かなさそうだ。
「柊木さん、先に34人連れて帰ってくれないかな」
「ちょっと! なに言ってんのよ!? あんたひとりでなにが――」
ひかるの不機嫌な返事は途中で断ち切られた。
委員長が長剣を一閃したのだ。剣風が宙を薙ぎ、前に出ていたひかるが後方に吹っ飛ばされる。
横目で一瞬見たけど、生徒たちに当たって薙ぎ倒されたが、無傷のようだ。事前に魔法で物理障壁を張っておいたおかげだ。
「くっ……」
ひかるが起き上がろうともがく。
「こいつら、かなりやるようだ。レベルを上げるしかないな、
「そうね、
クラス委員ふたりはファーストネームで呼びあう。なに、キミら美男美女で付き合ってるの? リア充なの?
と、委員長が動いた。一番近くにいた男子生徒に長剣を一閃させる。
「あ? え?」
足元をすくわれてマトリックスみたいにのけ反ったおかげで男子生徒は命を救われた。しかし、制服は袈裟掛けに斬られ、胸には創傷が走る。一瞬遅れて赤い飛沫が飛び散った。
うん、完璧。致命傷じゃないけど派手に血が飛び出るレベルで抑えられた。僕がやったのはこっそりノアに転ばせてと命令しただけ。
鮮血を吹き出して倒れた生徒を見て悲鳴が上がった。
「今の動き、なんなの? 召喚されたばかりの普通の生徒の動きじゃないわ!」
起き上がったひかるが生徒会長を見て戸惑った声を上げた。やっぱり、ひかるには鑑定スキルがないみたいだ。
「ん? 浅かったか?」
スパッと斬ったはずのクラスメイトがまだ動いているのを見て、不審そうにつぶやいた委員長が追撃を放とうとする。僕はクラスメイトたちの前に飛び出した。
委員長は長剣を振りかざしたところで銅像のように動きを止めた。力は込めているのに腕が動かないので、表情が険しくなる。
「ちょっと待ってくれるかな。せっかく助けたのに止めを差されちゃたまらない。全員連れて帰るのが仕事だし」
そう言うと、背中越しにひかるに声をかける。
「柊木さん、言い争ってる時間はないよね。グズグズしてると、その子死ぬから」
「……わかったわ。あんたも死ぬんじゃないわよ」
ひかるもただの美少女じゃない。異世界の勇者として召喚されて戻って来た前歴がある。《ディヴィジョン》のメンバーは全員そうなのだ。血を見たくらいで動揺する者はいない。
ひかるは重症の生徒を軽々と抱えると、生徒たちの塊に割り込む。ちょうど中心に来ると、アンカーを取り出し、スイッチを圧す。
「アンカー起動」
「待って、大輝クン!」
「あ? ちょっと!?」
女生徒の叫びにひかるが反応した時には、僕の背後の34人は忽然と消えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます