2:クラス召喚救出 その1
疑似召喚された先は、石柱が建ち並ぶ広間だった。巫女姫の世界のものよりもかなり広い。
上手い具合に広間の端にある柱の陰に現れたおかげで、近くには誰もいない。
「大きな儀式の間だなぁ」
「クラス召喚するレベルなんだから当たり前でしょ」
すぐ隣にいたひかるが素っ気なく言う。まあ、確かにそうだ。
「あれがクラスメイトね。まとめてさっと戻るわよ」
広間の中央に僕とは違う制服を着た高校生が固まっている。詰め襟の学生服とセーラー服だ。ひかるは襟についた記章をはずした。似たようなセーラー服なので、これで同じ学校と言われてもわからないだろう。
ぱっと見ると、幾つかのグループに分かれているのがわかった。
見るからに体格の良い体育会系、女の子ばかりの塊はお洒落系とヤンキー系、隅でひっそりしているオタク系、勉強が出来そうなエリート系、その他の孤立系。僕が入るなら間違いなく孤立系だ。
ざっとサーチスキルで見渡して、この世界の人間がいないことに気づいた。そして、問題がひとつ。
「34人」
「え?」
「34人しかいない」
「もう数えたの?」
「ぱっと見たらわかりませんか」
「わ、わからないわよ! 柱の陰になってる人もいるし!」
ひかるが声を上げたせいで、こっちに背を向けていた生徒数人が気づいた。
「あれ? おまえら、誰だっけ?」
「あ……僕は転校してきて」
「転校早々これなんて、ついてないね」
「えっと、私は隣のクラスなんだけどね。教室の前を通りがかったら、いきなりこんなことになっちゃって」
ひかるが困った顔をすると、男子生徒が思いっきり前のめりに話しかけてくる。美少女は得だ。
好意的な反応に安堵して、情報収集に入る。ここに全員いるなら、今のうちに一気に戻すことも可能だったんだけど、足りないならそうもいかない。
「僕ら隅っこの方にいたせいか、今まで意識失ってたんですよ」
「ああ、わかる。オレたちも頭痛かったもんな」
転移酔いは初めてなら確実に起こる現象だ。おかげで上手く頭が回らない状態で、契約させられて酷い目にあう。僕も苦労させられた。ボケた頭にパンクするほどの情報を投げられて混乱したところに契約書を突きつける。マジでヤクザみたいなシステムだ。
「それで、今どういう状況なんですか?」
「まだ説明はないんだよ。代表者寄こせって言うから委員長と副委員長が行ってんだけど、まだ帰ってこないしさ」
「それってどれくらい前?」
「もう30分くらいになるよな」
「他にはなにも?」
「まったく何も言ってこないな」
クラスメイトの話を聞いて嫌な予感を覚えた。多大のエネルギーが必要な召喚、しかもクラスまるごと召喚しておいて、代表だけ呼ぶとは不自然すぎる。
鑑定スキルを使って生徒を見る。
ゲームのように強さを数値化するような便利なものじゃないけど、特異なスキルについては隠蔽されたり、相手が格上でない限りはだいたいわかる。それが召喚によって追加されたものならほぼ確実だ。
召喚によって異世界に来ると、スキルが追加される。いわゆるチートというアレだ。《ディヴィジョン》の研究では、高位の世界から下位の世界に移行したことによって自分の能力が高められたためだと考えられている。まあ、わかりやすく言えば、地球で育った僕が地球の3分の1しか重力がない火星に行ったら高くジャンプできるという感じだ。僕の場合、最初に得られたの元々ぼっちで影が薄かったせいで、隠密のスキルだった。
鑑定の結果に予感が当たったことに気づき、他の生徒も鑑定する。結果は同じ。召喚による特異なスキルらしきものは誰も持っていなかった。
あるはずのものがないということは、どこかに行ったってことだよね。
ああ、面倒なことになりそうだなー。
ひかるに伝えようかと考えていると、タイミングよくひかるの方から先に寄ってきた。
「あんた、先にここにいる34人を連れて帰って。ふたりは私がやるから」
耳打ちしてきた。こう言うってことは、まだ通常任務のつもりのままってことだ。ひかるは鑑定スキルは持ってないから、危機感がないんだ。
返事をするより早く、奥にある扉が押し開けられた。
入ってきたのは、この世界の召喚士らしき男、護衛の甲冑姿の兵士6名、それに制服姿のふたり。クラス委員長と副委員長だろう。
「待たせて悪かったな」
委員長が手に持った長剣の切先で床をカツンと叩いて声を上げた。詰め襟の学生姿に諸刃の長剣という、まるでアニメにでも出てきそうな姿にクラス全員がどよめく。黄色い声も飛んでいる。登場シーンだけでこんなの僕の人生では経験がない。勇者として登場した時には微妙な反応だったし。ああ、人生不公平だ。
「みんな、ちょっと聞いてくれ。俺たちはこの王国の人たちに力を貸して、人間を滅ぼそうとしている魔族と戦う」
「ですから、皆さんから力を頂きました」
髪の長い副委員長がニッコリと微笑む。
過去形かよと、すぐに気づいたが、ひかるも含めて他に気づいた者はいないようだ。
「そういうことですから、ここにおいでの皆さんは残り滓ですので、不要となりました。私たち勇者のレベル上げのための尊い犠牲となってくださいね」
美男美女のクラス委員の言葉に、34人だけでなく、ひかるすら意味がわからずに反応できない。
委員長が長剣を抜き放ち、副委員長が杖を構える。
「こりゃ、見事にやられちゃったな」
鑑定眼ではクラス委員ふたりは状態異常になっていた。ステータスは《洗脳》だ。それだけじゃなく、スキルがとんでもないことになっている。
この後に繰り広げられる惨劇を止めるために、僕は美男美女の前に進み出た。
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