冒険者になろう。

 俺は竜王であるシュリアスと、エルフの森の女王であるエリスと野原を歩いていた。…というのも、女神カノンに見送られた後、目の前には木々がしげった森だった。周囲に動物もおらず、魔物も居ないので、森を抜けてレンガで整備された道へ出てからは、ずっと歩き続けている。歩いても魔物に出逢わないので、川で魚を釣って焼く…という工程を繰り返している。そんな生活をして4日ほど経った時、数キロ先に砦を見つけた。門には馬車が並び、検問を受けていた。列は2つあり、馬車が並ぶ列と、白い鎧を着た者と豪華な服を着た者の並んでいる列だ。


主人あるじよ、あの列には並ばないのか?流石に我は馬と共は嫌ですぞ!」

「私は別に良いですよ、自然の中には馬もいます。でも主人が行くなら、私も付いて行きましょう。」

「いや、行かないよ?行かないというより、よねー」

「何故だ、我は竜王ぞ!我の行く先々で、通さないなら押し通るまで!」

「いやいや身分証も無くて、金銭を持ってないから行っても捕まるだけじゃよ。逆に捕まるだけなら良いが、暴れたら町に入れずに魚生活だぞ?そもそもだが、魔物を見かけないのは辺境だから…というのもあるかもだろ?」

「そうですわね、辺境なら仕方ない事もあります。」

「我も魚より肉が食べたいからな、なんとかして食事に在り付くために大人しくしようか。それにしても、主人は老人語が抜けないなぁ。」

「あらら、もう気にせずに行くか。語尾なんて些細なことじゃろうし。外見は子供だから、言い負かせば良かろう!」

「ふふふ…」

 それから夕陽が見えてきた頃に、門前まで来れた。前を行く馬車は1つの商会の持ち物らしく、すんなりと通されていた。門兵が俺たちを見て、身なりの良い騎士が奥から出てきた。どうやら多種族がいると制度が厳しいのかもしれない。


「俺はタロウと言います、旅人です。2人は縁あって同行して貰ってます!」

「そうでしたか。いやーなに、部下が嘆くので来てみれば竜人にエルフと来れば、理解できます。では身分証も無いですよね?」

「ええ、入場料って取られますか?」

「いえ、大丈夫ですよ?ただ指名手配が居ないかを確認する為の検問ですから。身分証は商業ギルドか、冒険者ギルドで作れますよ?場所はですね、ここから中央に位置する噴水の近くにあります。」

「ありがとう。では早速、行ってみるよ!」

「はい、お気を付け「おい!」て…」

「何か御用ですか?さっさと門に入りたいのですが…」

 門兵から冒険者ギルドの場所を聞き、門内へ入ろうとしている時に隣の騎士の居る列から声が掛かった。声の持ち主を見ると、金髪の14歳くらいの男の子がいた。その男の子はエリスに用があるらしいのだが、エリスは半ば怒りが込み上がっている。男の子の周囲を固めていた騎士は無言で道を開け、『俺様』的に近付いてくる。シュリアスも、苛立ちが大きいようである。

「お前じゃない!そっちのエルフの女性に用があるんだ、男は引っ込んどけ。俺の父はな、この領地を治める辺境伯なんだぜ!平民は大人しくしとけ。」

「主人様、っても良いですか?」

「止めておけ、面倒ごとは速やかに済ませよう。とりあえず話は聞いておいてくれ、面倒なら押し通って構わない。」

「はっ。」

「それでは、俺は失礼します。私は宿舎を探さないといけ「待たんか!」ませんから…。…何ですか、平民ですので下がります。」

「父に言いつけてやるからな!指名手配して、この町から居れなくしてやるぞ、良いのかよ!」

「構いませんが?」

「へっ!?」

「貴族と違って平民は準備さえあれば、どこでも生きていけますからなぁ。この領地に居る者は、慣れた者、諦めた者以外は損しかない者は即刻去るでしょうし、まだ居るのは身寄りが無いからでしょうしね。それに指名手配しても王都なんか行けば、無効になるでしょう?」

「ぐっ」

「では、女王様。また会いましょう、行こうか。」

「受けてみろ、«ファイアーボール《火の玉》»!」

「«対魔法防御»。随分と弱い魔法ですね、ではこれにて。」

「何故なんだ?」

「それは主人が全属性を使えており、"召喚士"ですから。因みに私はエルフの森の女王を務めており、今はの主人の仲間です。」

「何だと!では国交をしようではないか、俺の父を挟んで…」

「私は今とても不機嫌です、主人様から離されて。よって、ソレは断らせていただきます!」

「うぁぁぁ…」


 辺境伯令息の放った«ファイアーボール»は太郎の魔法に特化した防御魔法に弾かれて消滅した。実際は反射できるが、先のことを考えて消滅を選んだのだった。そしてエリスからの暴露を聞かされたことで、より一層の驚きに変わった。なぜなら世界でも全属性を扱える者は居らず、"召喚士"という職業が未知で混乱していた。しかし、その混乱に終止符を打つかのようにエリスの放った風魔法で宙に投げ出され、落下の衝撃で意識を放した。

 エリスは令息の最後を見ずに太郎を探しに向かった。その光景に門兵も商人すらも、エリスに視線が集まるが、本人は特に気にせずに向かっていく。それからは騎士が辺境伯令息を介抱し、門兵の責任者は辺境伯を呼びに行き、その責任者の部下が馬車の入場を再開した。辺境伯がやって来るときには馬車の入場は終わっており、令息を介抱する騎士が門前に残っているだけであった。


「何があったのだ!なぜ息子は怪我をしたのだ、そこの門兵よ、答えよ!」

「はい、門に入場を許可された者をリドス様が引き留められました。引き留めてしまった者たちは人の子と竜人とエルフでして、リドス様はエルフの主人を無視してエルフの方に手を出しました。」

「では、そのエルフの主人がやったのか?」

「いいえ。引き留められたことに大層お怒りでして、そのエルフがリドス様を魔法で攻撃なされました。そのエルフが言うには、彼女は女王なのだそうです。またリドス様がエルフの怒りを買ったのは、リドス様がエルフの主人を魔法で先に攻撃した所為なのです!」

「で…では此度の失態は全てリドスの所為…なのか?」

「はい、そう…なります。」

「むむむぅ。それではエルフの一行は、どこへ行ったか分かるか?」

「今日は宿を探す、と溢しておりました。それと身分証が無いため、冒険者ギルドにも行くと聞きました。」

「そうか、良くやった!愚息を屋敷ではなく、馬小屋で寝かせろ!それと兵を召集して、探せ」

「はっ!」

「…なぜ王都から帰ってきたら毎回問題が起きておるんだ。」


  ◇◇◇


 ~エリスが太郎の元に戻ってから~

 噴水でエリスを待っていると、シュリアスの元へ町に居たであろう竜人が大所帯で集まっていた。人族には分からない波長があるのか、シュリアスが竜王という認識で接している。そして竜人の大所帯に押し流されそうになっている太郎は端に寄ろうとすれば…シュリアスに止められ、かといってシュリアスの側に居れば、「なぜ人族の子が…」と敵意の篭った視線が刺さって精神的に参っていた。竜王であるシュリアスは鈍感なのか、「主人が慕われて…」などとボソボソと溢しまくっている。

 勿論、エリスが戻ってきた時はシュリアスが引き剥がしてくれたので、視線が痛いが何とか距離を保てているのだが。シュリアスとエリスと共に歩きながら、エリスから先程の対応に関して聞いていた。

「エリスの対応には納得できたよ、被害も最小限に留まったようだしね。そう言えば、エリスが来る前はシュリアスの人気だけで大変だったよ。とほほ…」

「ご愁傷様です、主人様。この脳筋は何も考えてないのですよ、あのガ…いえ子供には流石に我慢できませんでしたが…」

「まぁ、それはそれとして…だ。宿舎は取れそうにないよ、シュリアスだけなら良いけど…」

「そうですね、主人様には敵意と殺意を感じますし。シュリアスは気付いているのですか?」

「ん、慕われていたのではないのか?」

「違いますよ、嫉妬に近い敵意でしたー。やっぱり、あなたには分からなかったようですね!」

「なんだとっ!」

「まぁまぁまぁ…」

「「あっ、すみません。」」

「とにかく今回、僕は宿舎は取らないよ。敵意は竜人族だけじゃないからね。」

「ん?」

「他に居ましたっけ?」

「ここの領主から指名手配されたら、宿に迷惑掛かるしね。それに…遠くからだけど、殺意が近付いている気がするんだよねー」


 太郎が気にしているのは、竜人族とエルフ族からの敵意以外に、人族に注意していた。方角はこの領地の奥地からなので、今は放置することにした。エリスは感覚に敏感のようで町内での敵意と殺意が分かっているようだが、シュリアスは殺気には気付いても、それ以外は気付きにくいようだ。何よりシュリアスは魔法というよりも、武器とスキルで闘うタイプだ。そして最も重要なのは、太郎の探している勇者の仲間は人族として転生するため、今から人族を敵に回すと勇者一行との再会が難しくなり、情報も乏しくなってからでは遅いのだから。

 それ以前に、シュリアス関連で竜人族から敵視されるのは避けたいのだが…。竜王が里から居なくなった事で混乱して、里から竜人が去り続けているという情報が入ったので、シュリアスに喚び出した事に謝ったが曖昧に許された。エリスの方は女王の座が空いていても、森を焼かれない限りは結界も厳重なため安全だという。なにより結界と精霊のお陰で閉鎖空間となっていて、外とは隔離されているという事だった。流石に彷徨さまよっていたら、森から出てしまうかもしれないと聞いた時は太郎も言葉を返せなかった。

 結局、その日はシュリアスも太郎と同じく馬屋で泊まった。馬屋の人は始めこそ渋っていたが、金銭不足と伝えれば、騒がない事を約束して泊めてもらえた。エリスは木の側に横たわって、警備として仮眠についていた。




  …翌日の朝…

 馬屋の人に泊めてもらった礼を述べてから、噴水が見える宿舎まで移動した。噴水前では騎士が大勢で聞き込みを行い、噴水前には腕を組んだ男が騎士に指示を出している。エリスに頼んで指揮官らしき男に当ててもらい、ふらつく程度の怪我を負わせた事で混乱し、騎士が二手に別れる。一手は怪我を負った男を連れて行き、もう一手は噴水から離れ、周囲に向かって走っている。噴水付近から騎士が離れた事をシュリアスに確認を取ってもらい、冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドの扉を開くと、多くの視線が向けられ、特にエリスに視線が釘付けされている。エリスが目を付けられる前に受付へ向かおうとするが遅かったようだ、既に周りを怖い顔の人に囲まれていた。すぐにエリスを守ろうと前に出るが、外見が子供というのが裏目に出てしまい、片手で払われて尻餅を付いてしまった。それを区切りに、シュリアスが殺気を放ったと同時に、その場に居た低級冒険者の面子めんつが青褪めた。受付嬢として席に着いていた男性職員は泡を食って倒れ、ギルド職員が戦意を失った者を端へ移していく。そして何事も無かったかのように、ギルド登録受付という席に職員が座り、そこへ招かれた。


「申し訳ありません。暴力沙汰になるなら出て行こうと思ったのですが、ギルドの制約がギルド内での出来事に手を出さないこと…となっているので、判断が遅れてしまいました。」

「いえ、それより冒険者登録を頼みます。俺と、この2人の登録です。登録に金銭は必要ですか?生憎あいにくと手持ちが無くて…」

「いえ。本当は登録に銅貨5枚を取りますが、先程の謝礼という事で免除いたします!では、こちらの用紙に名前を書いてください。職業や称号、スキルは、こちらの水晶玉に手をかざしてください。」

「分かりました。ほら、ここに書いてくれ。俺も書くから」

「ああ、分かった。」

「ええ。」


 それからは手続き中に騒がれることが、二度三度と繰り返された。太郎の所為というよりも、シュリアスとエリスが注目の的であった。シュリアスとエリスの2人に比べれば、太郎の職業は些細なことである。滅多に見られない称号の『竜王』と『森の女王』という項目を見るなり周りの冒険者から遠回しに怯えられ、ギルドマスターが出てくる程だった。それでも太郎の職業は100年で出るかどうかの逸材だったようだ。そう言うのも、長命のハーフエルフであるギルドマスターも『数百年前から一度も見たことがない』と聞いたからだった。

 ギルドマスターと話を良いところで区切ってから、町に入る際の門前での出来事を伝えると、彼は次第に眉間に皺を寄せ始めた。くだんの"貴族の子息"は見た目が美女だと誰でも手を出すタラシだったようで、領主からも内密にこのギルドマスターへ依頼が来ていたそうだ。しかし日を置かずに、貴族だと分からない者が子息の言葉を断れば貴族の名を汚したという理由で領から追放までされた者も少なくないらしい。軽くても、改心するまで軟禁するという情報まで回ってきている。だからという訳か、女性は娼館に隠れて普段は表に出ないように細心の注意を促しているようだ。それに痺れを切らしたのか、その貴族の子息は領の入り口である門に毎日のように騎士を連れて通っている…と情報が入っているという。

 相手が貴族の子息である以上、魔物を退治するのとでは大きく違うため、誰も指名依頼を出されても断っていることで困っていると聞いた。指名依頼を出された冒険者からしたら、貴族の御守りをするなら冒険者を退会するとまで言われており、下手に許可を出してしまえば、申請する者が続出するのは目に見えている。よって指名依頼を出しても無理をさせないように、昨日までは気遣っていたらしい。だが昨日、門前でエルフを見つけて声を掛けると、いきなり攻撃されたため騎士が捕らえようと動いていると聞かされた。


「やはり君達だったか。今回に関しては冒険者ギルドが責任を持って対処しよう!それもが目に付けたのは、仮にも『森の女王』を冠する方なのだから。」

「頼みます。我々も気を付けたいが、こうも騎士が歩き回っていては…」

「そうですね。善処はしますが、冒険者ギルドは公共の施設に類されていますから。いつ勘付かれるか分かったものじゃない。」

「でも、まずはギルドカードの作成を頼みたいですね。」

「ええ、もう少しで…「ギルドマスター!」。ああ、今出来たようです。」

「ありがとうございます。…そうだ、我々のギルドランクは平等に最下位からですよね?」

「はい。流石に王族であれ、貴族であれ、冒険者ギルドのランクはGランクからとなっていますので、大丈夫ですよ。それで、ギルドの説明は聴きますか?聴かなくても構いませんが。」

「いえ、ギルドの説明を頼みます。ランクの上げ方や、指名依頼について分からないので。」

「はい!では、こちらに移ってください。」

 ギルドの説明を聴くと言うと、ギルドマスターは嬉々として返事を返してきた。そして促されながら、受付所から少し離れた場所に移動した。

「それでは説明をいたします。こちらに移動して頂いたのは、その…流石に王を冠する方が居れば、冒険者が対応に困りますので、申し訳ありません。

 ランクについてですが、HランクからSランクまであります。Hランクは主に定められた年齢になるまでの方や、裁縫を主とする老いた方がなります。12歳になった者、初心者に類する者、ギルド登録をする者はGランクからとなります。Fランクへのランクアップには依頼を3回達成すれば、上がります。FランクからEランクへのランクアップは、依頼を5回達成すれば上がります。Dランクへは、7回の達成と、盗賊討伐依頼の遂行を同ランクでパーティを作ってギルド員の監視の下で達成することが条件となります。CランクからAランクは依頼をこなせば上がります。Sランクには実績とギルドとの信頼度次第でしょうかね。

 実績の基本は、国での指名依頼の数や、貴族からの依頼ですね。あっ、パーティは低ランクからでも大丈夫ですよ?では何か他に質問はありますか?」

「大丈夫です。」

「俺は眠い。話は終わりだろう?」

「私も大丈夫です。…というか、あなたは寝ないで!」

「ぐっ!?なぜ叩いたのだ!」

「それでは、今日の依頼を見てみよう。多分、エリスのお陰(?)で門には騎士しか居ないだろうから大丈夫だろう。」

「では持ってきましたので、この中から選んでください。」


 そうして10枚近い依頼の中から1枚の依頼書に決めて、ギルドを出た。受けた依頼は『薬草採取』で、ニジノ草という薬草10束を採取しに門へと向かった。門へ向かえば、騎士が散らばって聞き込みをしており、門兵は仕事を疎かにしていたので、簡単に外へ出ることが叶った。エリスによれば、ニジノ草は湿地に生えるというので、森の中では楽に見つかった。それからは各自で採取をし、早く採取を終わらせないために途中から魔物の討伐を繰り広げていた。討伐の途中で同業者である冒険者に出会ったが、討伐を見学するように端に居るだけで特に危害を加えるような事は起きなかった。その冒険者は始めこそ話しかけようとして来たのだが、シュリアスの気迫によって折れたらしく、今はその冒険者のパーティ仲間メンバーによって介抱されている。

 他の同業者にも出会ったが、彼ら以外は一度は考えた様を見せては去っていく…ということが数度と繰り返しループしている。彼ら冒険者が一回一回会うたびに違う面子なので、この森に何人の何パーティが入っているのか疑問を抱いてしまう。それに何故か、シュリアスに向かって魔物が倒れる度に襲い掛かってくるので太郎は驚いている。


「(誰かが間引きをして、こちらへ誘導している?或いはシュリアスの殺気で縄張り争いか?それとも…。いや、幾ら何でも数が多過ぎるぞ?そろそろ引き上げようかのぅ…。)」

「主人様、何か思い悩んでいるのですか?何かお悩みならば、お聴きしますよ。」

「いや、なんでもない。そろそろ、森を出ようかと思ってな。もう昼は過ぎているだろうし、魔物の素材部分を剥いで売れば、金銭が手に入るだろう。その金で何か買い込もうか…と思ってな。シュリアスを置いていくか?」

「それはやめた方が良いでしょう、きっと後になって拗ねますよ?私が声を掛けて来ましょう。」

「頼んだ。」


  [キシャァァ!]


「えい、はあぁぁ!」


  [ギシャ…シャ?…。]


「ふう、これで何匹目だ?もっと強いのは来ないと、拍子抜けだぞ!」

「シュリアス。」

「おお、エリスよ。どうじゃ、これくらい狩れば良い値が付いて売れるだろう?…にしても弱いんじゃが、もっとこう強い魔物とか来ないか?」

「では強い個体が来るまで動かない…と?」

「ん、そうだな。もうちょっと居たいとは思うが、どうしたのだ?」

「主人様が帰りたいそうです、もし共に帰らないのであれば、食事が浮いて私の食べる量が増えるので構いませんが…」

「なに!では素材を剥いで、タロウ殿に渡さねばならんな。なぁ、手伝ってくれないか?」

「女王にその解体をやれとは…。野蛮ですね、あなたがやれば良いでしょう?人材不足を私に振らんでください!」


「じゃあ、儂が手伝おう。エリスは下がっておれ、女性に解体を頼むとはけしからんぞ、シュリアス。儂が手伝えば、多少は進むであろうし」

「あっ、主人がやるのであれば、配下である私もやります。魔法で切るので、少しは助けになるはずです!さあ、では…」

「やめておけ、魔法を使ったら素材がダメになるだろうが。こういうのは丁寧に捌くのが、ちょうど良いのじゃ。ほれ、シュリアスも早ようやってくれ!」

「お、おう。」

「主人様…。では私は魔法で血の匂いを撒きますね?」

「エリス。…余計なことをするでない」

「お嬢さん?血が臭いからって撒いたら、魔物が寄ってくるでしょ。匂いは…どうすりゃ良いんだっけ?」

「それは血を水魔法で流すなり、土に濡らすなり、布で拭くなりすれば済む話だ。…ふむ、この地竜の肉は食えそうだな。これは血抜きをしておいてくれ、シュリアス。」

「おお!任せておけ」

「エリスは周囲に不可侵の結界を張ってくれ、他の者に見られれば問題視されかねない。あそこの冒険者は中だぞ?誰かに見つかって、この状況が知られれば街で貴族に目をつけられる。特に、あの子息には関わりたくないしな。」

「はっ。」


 それからというもの、魔物を捌いては素材をバッグに入れ、食べられる素材は空間魔法で虚空に仕舞っていく。売れそうな皮や鱗は丁寧に剥ぎ取って、シュリアスに纏めてもらう。剥ぎ取り終わったら、一部の魔物を無言で端に居る冒険者の側へ置いてから火魔法で燃やした。炭となったら、それに水魔法で水を満遍なく掛け、土魔法で穴を深めに掘り、死骸を跡形もなく埋めた。その後はエリスに霧のような結界を徐々に解いてもらい、その冒険者パーティに守りの結界を掛け、森から離れることにした。

 森の入り口に近付くにつれて、冒険者を多く見かけるようになったが、気にせず前を突き進む。彼らは太郎一行を見た途端、邪魔にならないように道を開けていく。その事に疑問に思ったのか、シュリアスが殺気を薄く伸ばして遠くへ向かって放つと、周囲の話し声が途絶え、静寂がしばらく続いた。エリスは太郎の陰で一瞬だけ顔を顰めたが、視線を感じた太郎が見れば平然とした顔に戻っている。シュリアスは太郎を守るように立ち振る舞っており、エリスには気付かない。

 門の入り口である門に着けば、騎士が密集して陣取り、商人も冒険者も関係なく、誰も通さないで立ち続けている。門兵を探すが、1人も見当たらないので声を掛けてみようと太郎が前へ出れば、慌ててシュリアスが立ちはだかる。太郎はシュリアスの思いを察してエリスと影のある場所へ移動して、ローブを着せて顔をフードで隠すように厳命する太郎。


「この領には入り口が2つあるけど、もう一方に行ってみる?ちょっと遠回りになるけども」

「そうしましょう。またあの子供の仕業でしょうし、門を飛び越えても良いですが、目立ってしまいますから。確か、もう一方の門は商業ギルドが主だって動いているので、少しは安全かと存じます。あちらに商人が移動する前に動くのが宜しいかと。」

「そうしようか。シュリアスもエリスも、周囲に気を付けて動こう。散開して、商業ギルド支部の側で合流しよう。門までエリスの護衛を頼むよ、シュリアス。」

「承りました、行くぞ!」

「ええ。主人様も、お気をつけて。」

「ああ。」


 エリスとシュリアスが見えなくなるまで見送ってから、太郎は影に隠れながら門の側の騎士に近付いていく。他の冒険者も太郎の行動に気付いたのか追ってくるが、太郎はそのまま騎士を倒して、それを踏み台に騎士の後方に移る。そして騎士が後ろを振り返るよりも早く風魔法で騎士の膝に土を付けさせる。他の冒険者は太郎が作った隙を突いて、門を抜けて行く。商人は護衛に付けた冒険者と突破口を作って入って行き、騎士が冒険者に牽制されている間に、太郎も門を超えて入っていき、中央にいた指揮官を水魔法で溺れさせて無力化し、騎士が介抱にまわっている隙に建物の陰に隠れた。

 門の側にある広間では門前に居た冒険者や商人が集まり、休憩を始めていた。彼らにとっては今日この日に入門しなかったことが死活問題につながってしまうからだ。冒険者は依頼を受け、商人は決まった日付までに荷物を届けるのが仕事である。そのため、届けなければ罰金が発生するのだ。商人は他があるが、冒険者は罰則が罰金か追放なのだ。だからこそ、冒険者は門前に集まっていたのだと太郎は推測する。それから太郎は商業エリアにある商業ギルドの入り口へ差し掛かるなり、ゴロツキに絡まれたが運良く、シュリアスとエリスに合流したのだった。


「何をしている?退いてくれるか、その方は我々のリーダーなんだ。」

「「ちっ!」」

「…連れが居るなら仕方ねぇな、おい!お前ら、次に行くぞ。」


「シュリアスもエリスも無事で何よりだよ。」

「ええ、門の警備は薄くて助かりました。あそこと違って検問が無かったので、楽に入れましたわ。なぜかと門兵に聞けば、あちらから来る方が少ないので警備も薄くなってしまうそうです。」

「そうだったか。じゃあ商業ギルドを物色したら、冒険者ギルドへ行ってみようか!」

「「はいっ(笑)。」」


 商業ギルドの中では素材の売買額が記されたリストが張り出され、冒険者ギルドと違って活気がある。冒険者も居るが、大半のメンバーは商人だった。受付で依頼を受ける者、依頼表とリストを見比べている者、その中には貴族と思われる程の装飾された服を纏った者も居た。そちらには嫌な予感がしたので、別の場所に目線を向ける。

 そこで受付の上にある踊り場で、茶色の髭を生やし、手で髭を触る年寄りが立っていた。一瞬、目が合ったが素知らぬように振る舞っていると、その老人は踊り場から階段を下りてくる。受付や商人たちはガクガク震えながら席を立ち、先程まで騒いでいた冒険者も静まっていく。

 そして階段を下り、床に足を踏み出した途端、全体に向かって殺気を放ってきた。その殺気で大半の商人は泡を吹き、冒険者は尻餅を付いて蒼褪めている。その殺気を上手く受け流して耐えた者でも、立っているのが必死だった。受付の者は慣れているのか、汗を掻きながら立ち尽くしている。だがシュリアスは鼻を鳴らした途端、老人の眉毛がピクっと動いたのを最後に、シュリアスも殺気を強く放ち返した!シュリアスの殺気で耐えていた受付の者や冒険者も白目を剥いて倒れ、老人は顔色が白くなって一歩も動かなくなった。

 暫く時間が過ぎれば、冒険者や商人が気が付き、受付の者は倒れたままになっている。冒険者はともかく、商人達は老人を起こそうと肩を揺すっているが、なかなか起きない。太郎は何も無かったかのように、エリスとシュリアスと席に着いて太郎が商業ギルドに足を運ぶ途中で買った昼食を食べ始めた。周囲の人は老人を揺すりながら、太郎に向かって『今はそんなこと(食事)してる場合じゃねぇ!』と突っ込んでいたが、シュリアスの一睨みで事が足りた。太郎一行が昼食を食べ終えた頃には老人が起きていた、顔色は悪かったが。さらに商人達が支えながら、その老人がやってくるなり片膝を床に付いて、太郎一行に言葉をかけてきた。


「冒険者、タロウ殿。そして竜王であられるシュリアス殿。さらにエルフの森の女王であるエリス殿。私は商業ギルドを担っております、ギルドマスターのフェレスで御座います。先程は御無礼を失礼しました、少々どのような方なのか、調べとう御座いまして。本当に申し訳ありませんでした!」


…と。

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召喚士は万能だった! 青緑 @1998-hirahira

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