村のために立ち上がるが…
飛竜と山賊が戦って民家が燃える中、村人全員で森へ避難している。友人の説明を要約すると、山賊が村に奇襲して来たが、空から飛竜が舞い降りたため現状の状態になったらしい。森から「森の主」を呼び寄せ、村人を移動させる。村では食料庫や家が飛竜のブレスで燃え続け、家畜小屋では柵が壊れて動物が逃げていくが、逃げる先々で魔物が駆けつけている。これは森の主の手腕によるものである。
『女王。飛竜を逃してしまい、申し訳なく…』
「良いわ、それよりも龍王に伝言を!私たちは出来るだけ遠くに家族と村の皆を移動させ、最小限に被害を抑えます。」
『ですが、ヒトの身である女王では…』
「魔法を使います!以前、旅商人から教わった"変化"で変われば問題はありません。」
『はぁ…では、龍王に伝言を伝えに行ってきます。』
「ええ。」
森の主が出て行くなり、マキは"変化"の魔法を詠唱する。詠唱し終わると、近くの水桶を鏡代わりに姿を見ると、そこには前世のミケの姿が映し出されていた。ある程度の状態を確認してから、森の一角へ向かった。その後ろからヨルが尾行して来るが、気付いていないフリをしながら移動する。今はヨルよりも飛竜を何とかしないと村が危ないためだ!森林を抜けると、ケットシーの群れが広場で遊んでいる場所へ出た。ケットシーとは人語を
そのケットシーは…と言えば、我が子を守るように後ろへ隠し、
「元気だったかしら、長老さん?今日は森が騒がしいのに物騒ね。」
マキに長老と言われた白いケットシーは静かに佇むマキの側で頭を垂れてながら、応えていく。
『はっ、最近は魔獣の規模が大きくなっております故、子らに狩りをお教えしておりました。…して今回は何か相談事ですか、女王。それに…そのお姿は?』
「ええ、飛竜が私の住んでいる村を焼いてしまってね、飛竜を遠ざけようと来たのよ。この姿は魔法で容姿を変えているだけよ、以前みたく出会って早々に攻撃されても困るからね!あの時と違って、今回は上手くいって良かったわ。」
『そう…ですか、魔法で。確かにヒトが来たら、狩られると思われても仕方ありませんなぁ。なんとも我々の毛皮を欲しがるヒトは多いですから、こればかりは…。では我々が飛竜を追い出さない場合は、どうなるので?』
「飛竜が考える事までは分からないけれど、龍王が変な報告をしたようでね。呼ばれているのは私なのだけど、子供じゃないって言うしね。標的は森全体らしいから、次にどこを襲うかは分からないわよ?」
『厄介ですな、あの方は何してるんで?』
「龍王に伝言を伝えに行ってもらったわ!でも間に合わない気がしたから来たのよ、それで手伝ってもらえる?群れのこともあるし無理そうなら、他を当たるけど。」
『いえ、私の
「そう…ね。」
『長老、勝手に決めないでくれ!』
『そうだぞ!幾ら何でもダメだぞ、そんな薄汚れた猫の言いなりなんて』
『お前たち』
『長老、あんたには失望したよ。俺に付いて来たい者は付いて来い!長老はご乱心だ!』
「じゃあ長老が率いられなくなった…って事で合ってるかしら?」
『あ…ああ、そうだぞ!貴様のような猫に言われるまでもない、これ以上関わるなら我が群れ一同で倒すぞ!』
「あっそ!じゃあ、この森から出て行って頂戴。」
『『『えっ!?』』』
「だって、この森を監視してるのは
『ま…待ってくれ、まさか…とは思うが…』
「じゃ、帰ってきたら言っておこうかな。これからの生活が
『ちょっと待ってくだされ、群れの粗相は私が謝罪するので、この先の平穏だけは!』
「元気でね、長老さん?また何処かで…」
そこからのマキの足取りは軽く、次の一角へ向かって行く。次はゴブリンの集落へ向かって進むマキ。ヨルは木から降りるのに時間が掛かってしまい、マキを見失う。その後、ヨルは森の主に会うまで、森を数日彷徨い続けて村へ戻れない。
◇◇◇
~ケットシーの群れにマキが向かっていた同時刻の村人たちは~
「マキとヨルは大丈夫かな。いくら森の主が一緒でも
「あんた。曲がりなりにも父親なんだから、しっかりしなさい!」
「お前は心配じゃないのか!」
「心配だけど、今は何も出来ないんだから、やれることをやるしか無いさね。ほら、簡易部屋で眠りな!私も少ししたら、休むから。」
「ああ、すまない。」
「あんたは戦い方は上手いのに、生活の初歩も、まともな料理も作れないって、どうなんだい?」
「ちょっと!?褒めるか貶すか、どっちだよ!」
「どっちもだよ、マキとヨルが似なきゃ良いんだけど…」
「おい?」
「「「はははっはー」」」
「(マキもヨルも、今どこに居るんかい…)」
マキの父親と母親の会話で、村人たちは落ち着きを取り戻し始めた。マキに従う魔物たちが洞窟に穴を掘り、そこへ村人が家族ごとに分かれて眠る。村人たちの中で家事全般ができるマキの母を筆頭にスープを作り、数名の若い男が狩りに出て行ったり村の様子を探るといったように、役割分担しながら休憩する。マキに従っている魔物は、村人の安全と狩人の侵入を防いでいる。
村人はマキの不思議な力のことは知っているが、それでも怯える者や睨みつける者が居る。その中で荒くれ者のベルという力持ちの少年と、カノエという少女はマキに対する視線が悪かった。主に魔物を従えていることを除いても、性格と行動に苛立っていた。この二人はマキの父方の親族だが、同じ生活の中でマキだけが村に関わらないのが多いことが主である。
◇◇◇
~マキがケットシーの群れから離れてから数刻が経った頃、ケットシーの群れでは~
『お前たち、なんで着いてこないんだ!さっきは、あんなに協力してくれたのに。』
『悪いけど女王を怒らせるくらいなら、女王に会いに行くべきなんだ。長老の言う通りにすれば良かったのに、何で私らはコレに着いていこうとしたんだろうね!みんな。女王の依頼を受けるなら長老を追いましょう、コレに着いて行くなら好きにしなさい!』
『待ってください、あなたが言ってしまったら、この子達はどうするのです?いくら女王を怒らせる事になったとしても、それくらい良いのでは?』
『良いかい、よくお聞き!女王は森の主を連れて傷付いた私らを救ってくださり、住処を分けてくださったの。あなた達が来るまでは、あの方は毎日のように来てくれたわ!それを追い返したのは、あなた方だった事を、もう忘れたと言うの!?後から来た者は追い返すか、服従かを決める事になってるのにも関わらず。』
『だって、本当にただの猫じゃないの!ケットシーでも無いのに、話せる事は確かに凄いわ。でも、それだけよ!仮に、あの猫が女王として君臨しているなら、この森は彼女の縄張りという話になってくるわ!そんなこと、あり得ないでしょう?ねえ、どうなのよ!』
『………そうよ、ここは…女王の…縄張りの中よ。この森を出なければ、女王の許可なしに住むことはできない。』
『えっ!?』
『しかも、この森に住む魔物を
『………そんな』
『(まぁ、女王様は猫というよりヒトなのだけど。この子達は知らなくて良いこと。)…着いてくる者は他に居るの?』
『『『私達も行きます、連れてってください!』』』
『ええ、行きましょうか。』
『ちょっとぉ!置いてかないでー』
ケットシー達は残りたい者を残してマキの元へ向かって行く。残りたい者も、実際は彼女らの後ろを着いて行くのだった。ケットシー達は長老と合流して、森の主の元へと向かって行く。しかし行き違いで、主は山を登っていた。マキの伝言を伝えに、上へ…上へ…と。
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