第4集

「君が往く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ天の火がも」

私の好きな和歌だ。意味は貴方が行く長い道のりを、手繰り寄せて折りたたんで焼き払ってしまえるような、そんな天の火が欲しい。というもの。この和歌は万葉集に入っている。今日はこの和歌に触れながら私の身に起きた話をしようと思う。

私がまだ青春を謳歌していた頃の話。その頃は周りの友達は着々と彼氏を作っていた。私にはまだいなかった。この時にこの和歌と出会った。万葉集には約4500首もの歌が収録されているのに何故かこの和歌からは私の興味を大きく引きつけるものがあった。そこで私は町内の図書館に行きこの和歌について調べることにした。

調べた結果としては、この和歌を読んだのは

狭野茅上娘子(さののおとがみのおとめ)という後宮で働く下級女官だったという人物。この人には恋人がいた。名前は中臣宅守(なかとみのやかもり)。娘子は下級女官と言えど天皇の元で働く身分であったため、結婚が出来ない。しかし、宅守はその規則を破ってしまった。その結果、宅守は越前の国(現在の福井県)に流罪の刑に処された。娘子は夫を流罪にされた憤りや悲しみからこの歌を詠んだといわれている。因むと娘子と宅守のやり取りで詠まれた和歌が沢山万葉集には収められいる。

私はこの和歌から夫と離ればなれにされた娘子の悲しさが感じた。少し分かる気がする。大切な人と離ればなれになるのはとても悲しい。そのように思う。

調べてから1年後、私にも遂に彼氏ができた。所謂陰キャ彼氏なのだが、彼も和歌好きということで、とても話が合った。そこから仲良くなり、彼から告白され、付き合うことになった。彼もこの和歌が好きだと言う。理由を聞いてみると儚さを感じられるからだそう。

そこから2年が経った。私も彼氏も卒業した。

私は大学生となり、彼氏は名古屋の製薬会社の経理部門に就職した。私は彼氏と離れるときに彼氏のLINEと電話番号を教えてもらい、毎日連絡し合った。その日合った事、食べた物、出会った人など他愛も無い話をして離ればなれになっている寂しさを紛らわせていた。そんな頃に起きた。あの悲劇が。

私が大学3年生になった頃の話。その頃から彼氏からの連絡頻度が落ち込み、遂にはピタリと途絶えた。私は嫌な予感がし、彼氏のご両親に連絡した。内容は彼が随分と長い期間家に帰って来ていないという物。やっぱり何かあったんじゃと思い、彼の職場にも連絡を入れた。彼は職場にも来ていないという。私は警察署に行き相談をした。一応、彼のご両親と相談をし、行方不明届を出した。

それから半年が経っても、彼は見つからなかった。私は大学を休学し、彼を待っていた。見つからないストレスや寂しさから鬱になりかけていた。そんな時にGoodニュースでもありBADニュースでもある電話が掛かってきた。嫌な予感は的中した。電話の内容をいなくなった経緯と交えながら話す。

彼からの連絡が途絶える1週間前、彼から1件のボイスメッセージが届いていた。内容は1週間後に話したい事がある。後で送るお店に来て欲しいという物。私はもしかしたらプロポーズかなと思い、ワクワクしていた。彼からの連絡を待っていた。でも、彼からお店の情報が送られて来ることはなかった。待てど暮らせど送られて来なかった。私は期待させといて送って来ないことへの怒りを覚えたが、すぐに冷めた。それから1週間が経ち、彼からの連絡が途絶えた。それと同時にある事件が起きた。1人の男性が殺害され、バラバラにされたという。私は事件が起きた日とから彼氏からの連絡が途絶えた日が全く以て一致したことに恐怖を覚えた。事件が起きてから3日後、被害者の男性の身分が判明した。その男性が彼氏だったのだ。私は絶望した。愛する人がこんな急にいなくなることへの悲しみと絶望を酷く覚えた。そんな時にあの和歌を思い出し、あの意味が凄くわかった。娘子の気持ちがとても理解できた。

これで私と娘子の詠んだ和歌との話を語るのを終えよう。最後に言いたいのは彼氏がいなければ私は今も前を向いて生きていないと思う。彼のお陰で私は他人を愛する気持ちを知れた。これで語るのを終えることにする。

自分の話を語り終えた彼女の心を満たしていたのは安心と満足感だった。

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短編集 @rsj

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