第3集

街中を走る山手線の音を横目に歩く夫婦がいた。僕はあの夫婦を帰宅時間によく見かける。若い夫婦だ。ぱっと見20代ぐらいに見える。


ある雪の降る日、その夫婦が僕の家を訪ねてきた。よくみると手提げ袋を持っている。

「お隣さんに挨拶をしにきました。これからよろしくお願いします。」

夫は言った。

「うん、よろしくお願いします。」

「カップ麺ですがよかったらどうぞ」

妻の方から手渡してきた。

「ありがとうございます」

僕は手渡されたどん兵衛を受け取った。

僕が受け取った後、「それでは失礼します。おやすみなさい。」と夫の方から言ってお辞儀をしながらドアを閉めていった。


僕は先程のことが気になってしょうがない。

実は、夫婦は一ヶ月前に引っ越したばかりで引っ越してきた当日に挨拶に来ていたのだ。

普通なら隣人交流として挨拶などのことをするのは分かるが、なぜ初見ではない僕に対して、まるで僕があの夫婦にとっての初見の人のように見えたのだろう。そう思いながら、僕はどん兵衛にお湯を注いだ。

5分のタイマーが鳴った。僕は引き出しから割り箸を持っていき、付属の七味を入れた。

「いただきます。」どん兵衛の麺を啜りながら

先程のことを考える。

僕の考察としてはあの夫婦は記憶に関する障害を持っていて一ヶ月ごとの記憶がなくなるということ。そして、そこから引っ越した初日までの記憶が綺麗さっぱり消える。そのループに入っている。こんな感じ。


翌日、隣人の人と会話している中で、全てが分かった。僕の考察通り、あの夫婦は記憶障害を持っていた。障害の内容も一ヶ月ごとの記憶がなくなるとのこと。そして、引っ越した初日の記憶までが残り、それのループをしていると言う。

やはり人生って不思議なことに出会うものだとしみじみ思う。そうだ。寒いし、どん兵衛作って食べよう。

僕はどん兵衛のあるキッチンに向かった。

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