チャンネル争いはポニーが解決!

みすてー

チャンネル争いはポニーが解決!



15時からの地上波の中継を観ようとテレビをつけようとしたら、抗議の声が上がった。

3歳になる息子が、イヤだというのである。

おウマ観ないー!

ほかに観たい番組があるとか、何かの録画を観ていたわけではない。ただ、興味無いから、面白くないからくる、単純な拒否反応。

父は仕方なしにラジオ中継へ、気分とともに切り替える。

ラジオからの声だけなら、息子としたらそんなに気にならないらしい。

競馬というか、馬に興味がないようだ。

実は東京競馬場に連れて行ったことがある。

パドックで険しい顔で馬を眺める姿が往年の馬券師のようで面白く、写真に撮った。しかし、単に陽が眩しかっただけで、それほど興味はなかったようだ。東京競馬場の遊具、海賊戦ではしゃいで、ご飯食べて、眠くなってワガママ言い出したので、お昼には帰ってしまった。競馬なんてそっちのけ、大きな公園に来たのとなんら変わらない。

動物園とは違い、馬が走っている姿にもう少し興味を示すかと思ったら、案外だった。

競馬は当分、父の密かな楽しみでひっそりとラジオを聴くくらいかなあと思った。


しかし、転機が訪れた。

今度はアプローチを変えてみたのだ。

明治神宮の裏手に渋谷区立ポニー公園に行ってみた。

となりに乗馬クラブが併設され、実際に馬へのブラッシングやニンジンの餌やり、そして引き馬の乗馬体験ができる小さな公園だ。

馬もポニーなので、ちいさな子どもも親しみやすい。

その日、冬を前にした11月の冷え込む朝だった。

小田急参宮橋駅を降りてすぐのポニー公園に子どもと一緒にニンジンを持ちながら、やってきた。お馬にニンジンを食べさせてあげる、というシチュエーションは子ども心にヒットしたらしい。

ブラッシングタイムは真面目にゴシゴシ、やり方がイマイチなのか、黒鹿毛のポニーの鼻息荒い様子だった。


親としては、お待ちかねの乗馬タイム。しかし、子どもはイマイチ反応が鈍い。だが、他の子が乗馬体験を楽しんいるのを見るうちにテンションが上がってきたのか、乗ると言い出すようになった。しかも、一人で。

ポニーが係の女性に引かれて、柵沿いを一周する。ほんの数分である。

跨った瞬間はやや緊張の面持ちだったが、やがて笑顔が生まれ、まっすぐ前を見たり、馬のたてがみを馬上からの景色を楽しんでいた。

結局、3回乗った。

最後はお待ちかね、ニンジンタイム。ニンジンの餌やりもボリボリ食べる様子に関心を持ち、何度もはいどうぞ、とニンジンがなくなるまで、若干ビビりながらではあるが、自分の手で馬の口元までニンジンを差し出した。

こうしてポニー公園で午前中たっぷり過ごして、いい思い出が出来たね、という話だが、話はここで終わらない。


重要なのはここからだ。


ある日の休日、テレビ中継を見ようかなと思い、試しに「お馬みていい?」と子どもに聞いてみると。

「いいよ、お馬大好き」

お友だちだもん、とのことである。

ポニーと触れ合うことでだいぶ距離が近くなり、親しみを持つようになった。

さらに。

ゲートがひらいて、レースが始まる。

一緒に見ていると、あ、白い馬だ、白い馬乗ったよねー、と芦毛の競争馬に興味を示し、ゼッケンに書かれた馬番を目で追う。

10番が速いよ!

あ、7番も!

と実況中継である。


数字を読めるようになったばかりなので、馬が数字背負って走るのは面白いようだ。

とはいえ、教えてもいないのに、ゴール板を通り過ぎた馬を見て、3番が勝ったよ、と教えてくれる。


父としては、その馬に勝ってもらっちゃ困るんだが、それはそれとして、競争をしていることを感覚で理解し、勝った負けたわかることに驚かされる。

なんだか、馬券のハズレが気にならない。

よもや競馬で、なにげないレースで、子どもの成長を感じることができるとは。

今はまだ、数字を読むのに精一杯だが、文字が読めるようになったら?

カナが読めれば馬名がわかる。

その時、また一緒に競馬中継を見てくれるだろうか。楽しく見れればよし、だが、成長に伴い、やっぱり興味ないやとなった時、また、土日の15時にテレビのチャンネル争いになるかもしれない。

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